【ウィキッド ふたりの魔女】あらすじ(ネタバレ)と考察-「善良な与える者」が直面する「自らの邪悪さ」と「価値観の転換」そして「空虚な王子」の皮肉-
「ウィキッド ふたりの魔女(Wicked Part1)」は2025年3月7日に日本で公開(アメリカは2024年11月22日)されたジョン・M・チュウ監督による作品であり、ブロードウェイミュージカル「ウィキッド(Wicked)」を映画化したものである。
その世界観は1900年に刊行されたライマン・フランク・ボームによる児童文学作品「オズの魔法使い」と1939年に公開されたウィクター・フレミング監督による映画「オズの魔法使い」を踏襲しつつその裏面史として、後に「西の悪い魔女」と呼ばれるエルファバと、「北の善い魔女」と呼ばれるグリンダの知られざる過去を描いた物語である。本作は映画「オズの魔法使い」のラストと思しきところからスタートするので、あらすじを思い出してみると、
竜巻で不思議な国オズに飛ばされた少女ドロシーが、故郷へ帰るためにエメラルドの都を目指す冒険ファンタジーである。道中、知恵を求める案山子、心を求めるブリキの木こり、勇気を求める臆病なライオンと出会い、共に偉大なる魔法使いの元へ向かう。彼らは願いを叶える条件として魔法使いの要請を受け、西の悪い魔女を倒す冒険に出る。見事に魔女を打ち破った一行はそれぞれ求めていたものを手に入れ、ドロシーも無事に家族の元へと帰還する。
となっている(詳しいあらすじは、【オズの魔法使い】あらすじ(ネタバレ)と考察-「言葉の魔法」がもたらす「救済」と「呪い」-で読むことが出来ます)。
基本的には、全く異なる二人の少女が出会い、反発しながらも絆を深めていく学園ファンタジーとなっているが、その実態は「与える側」の無自覚なエゴと、大衆が「共通の敵」によって連帯する様を多重構造で描いた作品となっている。
そんな「ウィキッド ふたりの魔女」だが、本記事では、そのあらすじを振り返りつつ、物語の中核をなす「ガリンダの態度が変化した理由」、「学生たちの態度が変化した理由」、そして「フィエロに『ケシの花の魔法』が効かなかった理由」についての解説・考察を行う。まずは、この映画の基本情報を解剖していこう。
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「ウィキッド ふたりの魔女」の基本情報
作品概要
| 公開日 | 2024年11月22日(米国)/ 2025年3月7日(日本) |
|---|---|
| 監督 | ジョン・M・チュウ |
| 音楽 | スティーヴン・シュワルツ |
| 原作 | グレゴリー・マグワイア「ウィキッド」 |
| 制作 | マーク・プラット・プロダクションズ、ユニバーサル・ピクチャーズ |
| 上映時間 | 160分 |
主要な登場人物(キャスト)一覧
| 登場人物 | 俳優 | 人物概要 |
|---|---|---|
| エルファバ | シンシア・エリヴォ | マンチキンランド総督の妻の不倫相手との子供。緑の肌と魔法の力を持つ。後の「西の魔女」。 |
| ガリンダ(グリンダ) | アリアナ・グランデ | シズ大学の学生。周囲から「善い人」と称賛される後の「北の魔女」。 |
| マダム・モリブル | ミシェル・ヨー | シズ大学の魔法学部長。エルファバの魔法の力に目をつけ、個別指導を行う。 |
| フィエロ・ティンゲラー | ジョナサン・ベイリー | 王立アカデミーから転校してきたウォンキー国の王子。退学を繰り返している。 |
| 偉大なる魔法使い | ジェフ・ゴールドブラム | エメラルドシティを統治する存在。オズ陛下。 |
| ネッサローズ | マリッサ・ボーデ | エルファバの妹。足が不自由で車椅子を利用しており、親から溺愛されている。 |
| ディラモンド教授 | ピーター・ディンクレイジ(声) | シズ大学の歴史学教授。言葉を話すヤギの動物。 |
| ボック | イーサン・スレイター | マンチキンランド出身の学生。ガリンダに気がある。 |
人物相関図
「ウィキッド ふたりの魔女」のあらすじ(ネタバレなし)
物語は、西の魔女が倒れ、北の魔女グリンダからその事実を告げられたマンチキンランドの人々が歓喜に沸く場面から幕を開ける。その祝祭の中、一人の少女が「何故悪は存在するのか?」とグリンダに問いかける。それを受けてグリンダは、かつて西の魔女と呼ばれた少女の昔話を語り始めるのだった。
西の魔女の本名はエルファバ。彼女はかつてのマンチキンランド総督の妻が不倫相手との間に設けた子供であり、生まれつき緑の肌と魔法の力を持っていた。そのため両親から忌み嫌われ、乳母の熊によって育てられる。後に車椅子を利用する足の不自由な妹ネッサローズが生まれると、親は妹にばかり愛情を注いだ。エルファバはその緑色の肌のせいで、同世代の子供たちからも激しいいじめの対象となる孤独な人生を歩んできたのである。
時が流れ、妹ネッサローズがシズ大学に入学することになり、エルファバも父の命令で彼女が寮生活に慣れるまで付き添うことになる。大学でエルファバは、後に北の魔女となる学生ガリンダと出会う。ガリンダはエルファバの緑の肌を「問題」と見なし、自分が同情して対処してあげると持ちかける。周囲はガリンダを「善い人」と称賛したが、エルファバは複雑な表情で嫌味を返し、ガリンダや周囲を困惑させた。
そんな中、ネッサローズを世話しようとする寮長と、父の言いつけを守ろうとするエルファバの間でいざこざが起き、エルファバは咄嗟に魔法を暴走させてしまう。幼少期から繰り返されてきたこの現象に妹は落胆するが、一部始終を目撃した魔法学部長のマダム・モリブルは違った。彼女はエルファバの能力に惚れ込み、個別指導を提案するばかりか、力を操れればオズ陛下が大臣にしてくれるかもしれないと告げる。トラブルの種だった力が未来を切り開くと知ったエルファバは期待に胸を躍らせるが、その裏では、オズ王国全土を巻き込む動物への恐ろしい差別が静かに進行していたのだった。
「ウィキッド ふたりの魔女」の結末までの詳細あらすじ(ネタバレあり)
(※警告:ここから先は、物語の冒頭から結末までを含む詳細なネタバレが記載されているため、未視聴の方はご注意ください。)
起:シズ大学での出会いと対立
西の魔女が倒れた。北の魔女グリンダによって告げられたその事実にマンチキンランドの人々は喜びをあらわにする。そんな中、一人の少女が「何故悪は存在するのか?」と尋ねると、グリンダは西の魔女の昔話を始める。
西の魔女の父はかつてのマンチキンランドの総督であった。西の魔女は妻の不倫相手との子供であり、生まれたときから緑の肌をしているばかりか魔法の力を発揮し、両親から忌み嫌われ乳母の熊によって育てられた。エルファバと名付けられた彼女にはネッサローズ(足が不自由で車椅子を利用している)という妹が出来たが、親は妹にばかり愛情を注いだ。エルファバはその緑の肌ゆえに同世代の子どもたちからもいじめの対象となっていた。
時代は下り、妹が「シズ大学」に入学することになる。妹に付き添ってきたエルファバはそこで、後の北の魔女グリンダとなるガリンダ・アップランドと遭遇する。ガリンダも他の人同様にエルファバの「緑」に驚き「魔法学を専攻するのでもしその『問題』に対処したくなったら言ってほしい」と同情を告げる。そんなガリンダを周りの人々は「善い人」と称賛するが、エルファバは複雑な表情を見せ、嫌味でそれに返答した。ガリンダも周りの人々も、そんなエルファバの態度に困惑するのだった。
エルファバは、ネッサローズを溺愛する父の命令で、寮生活に慣れるまで妹に付き添うことになる。しかし、シズ大学の寮長が総督の娘であるネッサローズを甲斐甲斐しく「お世話」をすることを申し出て連れて行こうとする。エルファバも父との約束があるために軽くいざこざになり、エルファバは咄嗟に魔法の力を使ってしまい、辺りが荒れ放題になってしまった。それはエルファバもそして妹のネッサローズも幼少期から何度も経験してきたことであり、ネッサローズは大学生活はそのようなことが起こらないと期待していたためにひどく落胆する。
その一方で、シズ大学の魔法学部長であるマダム・モリブルもその一件を目撃しており、エルファバの優れた能力に惚れ込み、一連の不可思議な現象は自分が起こしたことだとエルファバを庇った。その上で、セミナーでの個別指導を提案。エルファバもこれを受け入れる。
ミス・モリブルによると、エルファバがその力を操れるようになればオズの「偉大なる魔法使い」が大臣にまでしてくれるという。エルファバはこれまでトラブルの種でしかなかった自らの力が未来を切り開くきっかけになると感じ、期待に胸を躍らせる。そして、シズ大学の学生ではないエルファバと相部屋になってくれる人をマダム・モリブルが募ったところ、アクシデントからガリンダがルームメイトとなることとなった。しかし二人は反りが合わず、お互いに対する強烈な嫌悪感を覚えていた。そして他の学生たちはひどくガリンダに同情的であり、エルファバに嫌悪感を持つのだった。
承:動物たちへの差別と、縮まる二人の距離
そんなある日、エルファバたちが受けていた歴史学の授業中、黒板に「動物は話すな(ANIMALS SHOULD BE SEEN AND NOT HEARD)」という侮辱的な文字が書かれるという事件が発生する。歴史学の教授ディラモンドはヤギであり、その言葉は動物に対する強烈な差別意識の現れだった。かつてオズ王国は動物とそれ以外の存在が溶け合う多様な世界だったが、ひどい干ばつが発生し、その原因・責任・理由を求めた人々が動物に対するひどい差別意識を持つようになっていた。黒板に書かれた文字もその一端の表れであった。
その夜、ディラモンド教授は仲間の動物たちと集まり会議をしていた。心配して後をつけていたエルファバはその内容を知ることになるが、今や動物たちへの差別意識は極大点に達しており、動物たちは次々と仕事を奪われるばかりか、話す力を奪われるものも出始めていた。行方不明者も多数存在している状況だった。
その帰り、エルファバは森の中で馬に乗った無礼な男と出くわすのだが、その男はウォンキー国の王子フィエロ・ティンゲラーであり、王立アカデミーからシズ大学へ転校してきたのだった。翌日、エルファバは大学で不本意な再会を果たすことになった。
フィエロ王子は学校という状況に反抗的であり、何度も退学を繰り返していた。そんな彼は、真面目に勉学に励んでいるシズ大学学生たちを先導し「オズダストボールルーム(日本語字幕ではスターダスト)」へ誘い出す。そのどさくさの中でマンチキンランドのボックがガリンダにアプローチをかけるのだが、うまく交わされてしまい、ネッサローズを誘うことになる。
それでも、ネッサローズはこれまでに経験のなかったことに喜び、その機会を作ってくれたガリンダにひどく感謝するのだった。妹の「ガリンダに報いたい」という思いを受けて、エルファバはモリブルに、かねてからモリブルからの指導を望んでいたガリンダにも魔法の訓練を受けさせるように頼む。それが叶わないなら自分が辞めるとまで言い張った。一方のガリンダは、祖母からもらったダサいとんがり帽子(魔女の帽子)をエルファバに被らせてボールルームでのパーティーに参加させることを企む。
その夜、学生たちは寮を抜け出しボールルームへ向かう。そこでボックはネッサローズに対して、自分はガリンダに気があるのだがそのガリンダに言われるがままに誘ったという事実を語ろうとするのだが、その時、口づけを交わすフィエロとガリンダの姿が目に映る。自らの思いが届かないことを悟ったボックは、ネッサローズに対して「君がとても美しかったから誘ったのだ」と嘘を告げるが、ネッサローズはその言葉にひどく感動し、車いすのままボックとのダンスを楽しんだ。その時、ボールルームにモリブルが現れ、ガリンダに魔法の訓練を受けさせることを告げ、それがエルファバの頼みだったことを伝える。
エルファバもモリブルと共にボールルームへ来ていたのだが、学生たちが彼女を認識した途端、状況が一変。賑やかなダンスホールが、ダサいトンガリ帽子を被った嫌われ者のエルファバを嘲笑する場所に変わる。その状況の中で、エルファバは全てに反抗するように、無音の中でダンスを披露する。周りの冷ややかな視線は変わるどころかより悪化する中で、自らの犯した罪に気がついたガリンダが新たな一歩を踏み出す。ガリンダがエルファバと踊ることを決断すると周りの人々もそれに導かれるように、二人の新しい関係を祝福するのだった。
その夜、僅かな雪解けを迎えた二人の間で、これまでにはなかったような会話がなされた。エルファバは、妹の足が不自由である理由は自分であると語る。母が妹を妊娠したとき、姉と同じように緑の肌になることを恐れた父が母に「オシロイ花(英語の台詞では”milkflower”)」を食べさせたことが原因で、早産となり、妹の足が不自由になったばかりか、母も出産に伴い亡くなってしまった。エルファバはそのことについて自責の念に駆られ続けていたのだった。
そんなエルファバにガリンダは酷く同情するのだった。そうしてガリンダはエルファバをエルフィーと呼ぶようになり、ガリンダはエルファバを「人気者」に変身させようとまずはファッションや立ち居振る舞いの「改造」を試みるのだった。そうしてガリンダだけでなく、他の学生の態度も変化し、これまでとは全く異なる生活が始まった。
日本語吹き替えや字幕で、エルファバの父が母に食べさせた(噛ませた)花として「オシロイ花」が登場する。その種子からオシロイのような白い粉が取れることから名付けられているが、この花には確かに嘔吐、腹痛、下痢などの毒性がある(参考:高崎総合医療センター「こくだか連携だより」)。日本語訳的にはこれを大量に摂取したために悲劇が起こったことになる。
一方で、英語では同じシーンで「milkflower」という表現がなされている。これは「オシロイ花」を意味する言葉ではないし、私が調べたところによると特定の花を指す言葉ではない(オシロイ花の英語名はFour o’clock、学名はMirabilis jalapa)。おそらくは、「白くなってほしい」という父の願いを叶える花として架空の花を採用したと思われる。それに毒性があることは早産と母の死という結果によって保証されることになる。
おそらく「milkflower」を日本語訳するときに、特定の花を指すものではないために、「白」というイメージと「毒性」を併せ持つ「オシロイ花」を採用したと思われる。カタカナで「ミルクフラワー」とすることも出来たと思うが、わりかし名訳だったのではないかと思う。この辺の事情をご存じの方はぜひとも教えていただければと思います。
転:エメラルドシティへの旅
しかしその一方で、ディラモンド教授が動物が教えることを禁じられたために、大学を追われることになり、なんと教室から連行されてしまう。そして現れた新しい歴史学の教授が最初に教えたものは動物を閉じ込める「檻」だった。実際に檻に閉じ込められた子ライオンを持ち込み、それがオズの未来であり動物たちも救うと語る。しかし、檻の中で動物たちを管理し、言葉も学べないようにするその考え方に怒りを覚えたエルファバが偶然に発動させた「ケシの花の魔法」によって教室にいた人々が眠りに落ちてしまった。
しかし、何故かフィエロはその魔法にかからず、エルファバと二人で檻に閉じ込められた小ライオンを檻から助け出し、森の中に逃がすことに成功する。エルファバはその一件を通じて、自分の中にフィエロへの特別な思いがあることに気がつくが、フィエロとガリンダの関係を知っていること、そして自分とは無縁のことだとその思いを押し込めようとする。エルファバがその恋心に悩んでいる中、モリブル教授がエメラルドシティに送っていた手紙の返事が届き、エルファバは「偉大なる魔法使い」に謁見するチャンスを得る。
エメラルドシティへ向かう汽車のホームにガリンダが見送りに来てくれた。いなくなると寂しくなるというガリンダに「フィエロがいるから大丈夫でしょ」と答えるが、どうやら最近フィエロの様子がおかしいらしい。そんな話をしているところにフィエロがやってくる。彼は、子ライオンのことやディラモンド教授のこと、そしてあの日のことを考え続けていたと語る。どうやらフィエロの心の中にもエルファバに対する尋常ならざる思いが芽吹き始めているようだった。
そんな二人の会話についていけないガリンダは、無理やり二人の話に合わせるように、みんなの前で今日から「グリンダ」と名前を変えることを宣言する。それは、ヤギであるがゆえに自分の名前を「グリンダ」といい間違え続けたディラモンド教授への連帯とその処遇への怒りの表明であるという。そして汽車に乗り込んだエルファバだったが、何かを思い立ち、グリンダにも汽車に乗るように促す。結局グリンダもエルファバといっしょにエメラルドシティに向かうのだった。
結:偉大なる魔法使いの正体と決別
エメラルドシティについた二人は「偉大なる魔法使い」の歌劇を目にする。それによると、かつてエメラルドシティには優れた賢者がおり、その魔法の知識を「グリムリー」という書物に記した。しかし時が経つにつれて、その書物を読む力を持つものがいなくなってしまった。しかし、賢者たちはいつかオズに危機が訪れたとき、魔力を持った者が現れ、再びグリムリーを読むだろうと。そして、その地に気球に乗った男がやってきた。それが予言の人物か確かめるために、人々がグリムリーを見せると、その男は「オマハ」とグリムリーの内容を読んでみせた。そうして「偉大な魔法使い」が生まれたのである。
歌劇が終わると、エルファバとグリンダはいよいよ「偉大な魔法使い」との謁見に向かう。謁見の場につくと、そこにはロボットのような大きな顔があり、恐ろしい声で「なにゆえ私を求めるのか」と威厳と恐怖をもって問いただしてきたのだが、エルファバが自分の名前を出すと、大きな顔の後ろから、普通の男が現れた。その装置をつかっていると顔が見えなかったというその男こそが「偉大なる魔法使い」であった。エルファバは「偉大なる魔法使い」から願いを聞かれると、自分のことではなく動物を救うことを願い出た。
そこに、エルファバの晴れ姿を見るために訪れたモリブルが現れる。そして、エルファバは古の魔術書「グリムリー」と対峙することになる。モリブルですら2語ほどしか読めないというその書物の文章を、エルファバは何故か読むことが出来た。その時、「偉大な魔法使い」からチステリーという猿の護衛隊長を紹介される。彼はものを語らないが実は空を飛びたがっていると聞かされると「グリムリー」のページが自動的に開き、エルファバがそこに書かれた「浮遊呪文」を唱えると、チステリーの背中に突如翼が生えだし、彼は空を飛ぶことができるようになった。
しかもチステリーだけでなく、他の護衛隊員の背中にも翼が生えていた。しかし、彼らはひどく苦しんでいるように見え、エルファバはその呪文を解こうとするのだが、モリブルによるとそれは出来ないらしい。自責の念に駆られるエルファバだったが、その時、「偉大なる魔法使い」とモリブルが「これでそらとぶスパイができる」と悪意に満ちた喜びを見せた。
実は、人々を先導し動物達をひどい目にあわせていた黒幕は「偉大なる魔法使い」だった。猿の護衛隊に翼が生えたのも、「グリムリー」の前で「偉大なる魔法使い」とモリブルが巧みにエルファバを誘導した結果であった。それどころか、モリブルがエルファバに目をつけたのも、全ては計画の遂行にその力を利用するためだった。
「偉大なる魔法使い」はそれは人々を救うためには必要なことだったと語る。彼がこの世界にたどり着いたとき、人々の間には不満が満ち溢れていた。それを解決する方法は共通の敵を作ることだったと。その時、エルファバはあることに気がつく。空を飛ぶスパイが必要なら自分で魔法をかければ良いのにそれをしなかった「偉大なる魔法使い」は、実のところ「グリムリー」を読むことが出来なかった。彼は「偉大なる魔法使い」などではなく、ただの人であった。
モリブルらはエルファバを一味に引き入れることを画策するが失敗。エルファバに逃げられてしまうが、翼の生えた猿の護衛隊がこれを追撃する。後を追ってきたグリンダはエルファバにモリブルたちの言う事を聞くように説得を試みるが、エルファバはそれに応じなかった。その時、モリブルの声が辺りに響き渡る。エルファバは「グリムリー」を盗み、猿に呪いをかけた「邪悪な魔女(wicked)」にされてしまった。
明らかに自分たちの手に負える状況を超えてしまった中、グリンダは「偉大なる魔法使い」に謝ってほんの少し前までの望みであった彼の片腕になることを進言するが、エルファバはその状況に抗うことを決意する。
エルファバは追い詰められた状況を脱するために再び「浮遊の呪文」を唱えるが、今回は翼が生える代わりに、彼女の前にホウキが現れる。エルファバはグリンダに一緒に行こうと願う。グリンダもそれに応え、二人で逃げ出そうとするが、グリンダだけが捕らえられてしまった。そしてエルファバは一人、西の空に消えていった。そして世界には、「邪悪な魔女」という共通の敵が残ったのだった。
「ウィキッド ふたりの魔女」の解説・考察
- ガリンダの「与える者(giver)」としての側面
彼女は初対面時からエルファバの緑の肌を「問題」と断定し、救済を与えることを当然視している。彼女が敵対したのは、その基本的に善意に基づく「give」をエルファバに拒絶されたから。 - 悪意のプレゼントによる「価値観の転換」
ガリンダはダサい帽子という完全に悪意に基づく「give」を行ったが、逆にエルファバから「モリブルの指導を受けさせる」という極上の「give」を返された。この二つの出来事がガリンダの価値観を転換させ、自らの「邪悪さ」に気づいた。 - 大衆心理が求める「共通の敵」の変容
学生の敵意は、緑色への嫌悪→上位のガリンダと対立したことによる「共通の敵化」→反体制のフィエロ出現による「学校体制」への敵意の移行→ガリンダの変化による同調、という形で移り変わる。 - ケシの花の魔法が暴いたフィエロの「空洞」
彼に魔法が効かなかったのは愛の奇跡ではない。彼が社会を生き抜くために「思考(脳)」と「本当の恋(心)」を放棄し、自らを空虚な存在(案山子とブリキ)へと貶めていたからである。
「善良な与える者(giver)」の傲慢と価値観の転換-ガリンダが態度を変えた理由-
この物語において非常に興味深いのは、ガリンダ(グリンダ)のエルファバに対する態度の急変である。彼女は初対面の時から一貫して「与える者(giver)」としての側面を持たされている。
ガリンダはエルファバの緑の肌を直感的に「問題」と断定し、その「救済」を与えることをごく当然のことと考えていた。彼女が当初エルファバと敵対した根本的な原因は、この「救済」を嫌味で拒絶されたことにある。劇中の描写を見るに、これまでの人生で彼女がそんな拒絶をされたことがないのだろう。ただ、少々傲慢である彼女の「give」も基本的に善意に基づいたものであり、彼女自身が「善良な人」であること自体は疑いようがないとは思う。
では、なぜ彼女の態度は変化したのか。そこには2つの側面がある。
一つは、彼女がエルファバに祖母からの贈り物であった「ダサいトンガリ帽子(魔女の帽子)」をプレゼントしたこと。これも「与える(give)」行為であったが、それは完全に悪意に基づいており、「善良」であったこれまでの彼女の在り方とは全く違っていたのではないだろうか。
そしてもう一つが、その直後にエルファバのお陰でモリブルの指導を得られるという「give」が逆になされ、悪意をぶつけた相手から最大の利益を与えられるという強烈な経験をする。ガリンダはこれら2つの事実によって、これまでの人生観が根底から覆るほどの「価値観の転換」を引き起こしたということになると思われる。
もう少し別の言い方をすると、彼女はエルファバと関わったことで自分の中にある「邪悪な(wicked)側面」に気がつくことが出来たからということもできるかもしれない。
「共通の敵」を必要とする大衆の病理-学生達が態度を変えた理由-
ガリンダの変化に伴い、他の学生たちの態度も急変するが、これはこの作品全体のテーマ性の一つである「共通の敵」に密接に関連しているだろう。
学生たちは最初、ガリンダに対して「緑色である」という事実だけで直感的・生理的な嫌悪を抱いた。しかし、それが明確な「共通の敵」として成立したのは、彼女が「善良な与える者」というスクールカースト上位に位置する絶対的な存在(ガリンダ)と対立したからである。
ところが、そこへフィエロという「学校生活というものと全く相容れない存在」が出現したことで、学生たちの共通の敵は、エルファバという個人の異物から「学校そのもの」へと都合よく変化している。
その上で、絶対的正義であるガリンダの態度の変化(エルファバと一緒に踊る)があったために、学生たちのエルファバへの態度もコロリと変化する。つまり、大衆の抱く敵意や好意などというものは、その時々の権力構造によっていかようにも操作される、極めて軽薄なものだということが表現されている。
「偉大な魔法使い」が動物を迫害し、最終的にエルファバを「邪悪な魔女」という共通の敵に仕立て上げたのと全く同じメカニズムが、シズ大学の学生たちの間ですでに展開されていたのである。
ケシの花の魔法とフィエロの正体:脳のない案山子と心のないブリキ
さて、劇中で最もロマンチックに消費されがちな「ケシの花の魔法」のシーンについても解剖しておかなければならない。怒りに任せて暴走したエルファバの魔法によって教室中が眠りに落ちる中、なぜかフィエロだけがその効力を免れた。
普通に考えれば「エルファバの無意識の愛が彼を守った」ということになると思うが、もう少し別の側面を考えてみよう。そのために映画「オズの魔法使い」での描写を思い出してみたい(全体のあらすじは「オズの魔法使い」のあらすじと考察から読むことができます)。
「オズの魔法使い」の中で、ケシの花畑を通った、ドロシー、犬のトト、ライオン、ワラの案山子、ブリキの木こりの中で、「脳のない案山子」と「心のないブリキの木こり」の二人には何故か魔法が効かなかった。「オズの魔法使い」だけを考えればそれは、案山子とブリキの木こりが「非生物だから」ということが理由ということになる。しかし「ウィキッド」の中では、人間であるフィエロに魔法が効いていない。
それは彼が、強烈な同調圧力に満ちたオズの社会(あるいは息苦しい学校体制)を生き延びるために、真面目に「考えること」を完全に放棄していたからではないだろうか。つまり、退学を繰り返し不真面目を装うことで、自らを「脳のない案山子(ワラ)」と同等の、中身が空っぽの非生物へと貶めていたのである。
さらに言えば、特権階級の王子としてヘラヘラと遊び歩き、誰に対しても本当の恋や執着を持たずに生きてきた彼は、同時に「本当の恋」を知らない「心を持たないブリキの木こり」でもあったということになるだろう。
エルファバの魔法は、体制に順応し切った有象無象の学生や教員を眠らせた一方で、すでに自分自身の精神を空洞化(非生物化)させていたフィエロには物理的に作用しなかった。なんとも残酷で皮肉な話だが、このように考えるとあの現象の説明がつくのではないだろうか。
以上が私が「ウィキッド ふたりの魔女」について考えたことでございます。基本的には「公式の二次創作」であり「アナと雪の女王」+「マレフィセント」と呼べるような構造を持つ作品ですが、個人的には結構好きでした。
特に、ラストでエルファバがホウキで飛び出すシーンの歌は力強くも美しかったと思います。
そして何より「オズの魔法使い」を知っている人にとってはこのあとの展開が非常に気になるものだったと思いまが、後編となる「永遠の約束」については、こちらの記事で考察しています。
すでに完結している「ウィキッドシリーズ」ですが、皆さんにとっては「ウィキッド ふたりの魔女」はどのような作品だったでしょうか?
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