【名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌】伊東末彦の真の犯行動機を考察-彼が守ろうとした「ドリームランド」という幻想-
「名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌」における伊東末彦の犯行動機は、表向きには「清水麗子を自殺に追い込んだ警察への復讐」と見える。つまり、「私立探偵たちに事件の真相を暴かせることで、警察の失態を詳らかにすること」が目的のように見えるのではないだろうか。しかし、その説明だけでは本作に配置された複数の違和感を十分には回収できない。
この記事では、現金輸送車襲撃事件、西尾正治狙撃事件、そして映画本編で探偵たちを巻き込んだ脅迫劇という三つの事件を一本の線でつなぎ、伊東末彦の真の犯行動機を考えていく。結論を先に言えば、彼が最後まで手放せなかったのは金でも復讐でもなく、「清水麗子は自分を愛していた」という事実の証明だったのではないだろうか。
この結論にたどり着くために重要なのはこの作品に散りばめられた以下の疑問・違和感である:
- 何故伊東は「警察に出頭する」という単純な方法を取らなかったのか?
- 西尾正治狙撃事件の全容に伊東が気づかないということがあり得るのか?
- 何故最後のパスワードは「清水麗子」ではなく「伊東末彦」だったのか?
ここからはこれらの違和感について考えながら、最後の結論に辿り着こうと思う。
- 復讐だけではこの事件は説明しきれない
表面上の動機は、清水麗子を死に追い込んだ警察への報復である。だが、伊東が出頭するという単純な方法を取らず、わざわざ探偵たちに真相を追わせた点には、それ以上の執着が見て取れる。 - 三つの事件は二人の関係を前提にするとつながる
現金輸送車襲撃事件、西尾正治狙撃事件、そして本編の脅迫劇は一見ばらばらである。しかし、伊東末彦と清水麗子がすでに男女の関係にあったと考えると、清水が伊東を導き、伊東はその関係を信じたまま動いていた流れとして一本につながる。 - 直接の動機は二人だけの秘密を守ることだった
本編で伊東が事件を起こした直接の動機は、清水麗子が過去二つの事件に関与していたという秘密を守ることだった。伊東にとってその秘密は、清水との関係そのものを成り立たせる支柱でもあった。 - 真の動機は愛情の証明だった
伊東は、自分が清水に利用されていた可能性に薄々気づいていた。それでもなお、清水麗子も自分を愛していたと証明してほしかったのではないだろうか。最後のパスワード「伊東末彦」とドリームランドは、その恋愛幻想にしがみついた彼の願望を象徴している。
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「名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌」の考察
表面上の動機としての「復讐」の違和感
まず、本編で伊東が探偵たちに事件解決を強いる表向きの動機は分かりやすいのではないだろうか。西尾正治射殺事件の参考人として任意聴取された清水麗子が、追い詰められて自殺したことへの報復である。そしてその「復讐」をどのように実現しようとしたのかと言えば、名のある私立探偵にその「真相」を暴かせることで警察に恥をかかせることだった。だが、この説明にはどうしても引っかかる点がある。
恥をかかせるなら、伊東が犯人であると確定し、警察に事情聴取された無関係の人物が自殺してしまったことが明るみに出ればよい。早い話が、伊東が出頭してしまえばよいということになる。ライフルに付着したマスカラという物証は、清水がスコープを覗いた可能性を示唆することはあっても、それだけで即座に清水の犯行を断定する決定打とは言いがたい。
西尾が座っていた椅子、そして床に付着した血痕についても、警察はそれを決定だと思えなかったからこそ、清水麗子は「任意事情聴取」だった。
伊東が出頭して自白までしており、状況証拠が揃っているのなら、伊東が真犯人ということで書類送検となると思われる。そして、マスコミがそれを嗅ぎつけてくれれば、警察のミスで善良な民間人が自殺した大事件となり、十分恥をかかせる事ができる。
にもかかわらず彼は、わざわざ複数の探偵を呼び集め、時間制限と人質まで用意して、事件の「真相」に辿り着かせようとした。ここには、単純に清水麗子の潔白を示したいという以上の執着が見て取れる。
三つの事件をつなぐ「秘密の共有」という伊東末彦のロマンチシズム
映画本編では以下の三つの事件が描かれていた:
- 現金輸送車襲撃事件
- 西尾正治射殺事件
- 探偵たちを巻き込んだ脅迫劇
それぞれは全く別個の事件だったが、三つの事件の一貫性を示すのが、伊東自身の語る「秘密を共有することで男と女の仲は深くなる」という発想である。彼にとって犯罪とは、単なる金儲けでも自己顕示でもなく、愛する女と共有する秘密として意味づけられていた。
しかしこの「秘密の共有」という考え方についても少々の違和感がある。彼は何故、秘密を共有したいと思うようになったのだろうか?単に思いを馳せているだけの相手に対してこのような思いを持つのだろうか?
現金輸送車襲撃を主導したのも清水麗子
現金輸送車襲撃事件だけを切り出して見ると、伊東が清水の気を引くために自分の優秀さを誇示した、と読むこともできる。だが、この見方にはやや無理があるように思われる。というのも、伊東はわざわざ清水について「愛する人」として語っている。単に想いを寄せているだけの相手を「愛する人」と表現するだろうか?表現してもよいのだが、伊東の清水への執着にはもっと具体的な執念を感じる。つまり、
伊東と清水は男女の関係にあったと考えるほうが自然ではないだろうか。
もちろん、その関係は伊東にとっては深い愛情を伴うものだったが、清水麗子にとっては伊東を利用するための手段に過ぎなかったということになる。いずれにしても、清水との関係をかなり深いものとして認識して見ないと、後の暴走を説明できない。
そしてこのように考えると、現金輸送車襲撃事件を先導したのも実のところ清水麗子だったことにならないだろうか。
つまり、自慢話を好み、自尊心が強く、自分の計画の完全さに酔う人物であった伊東に対して、「あなたなら完全犯罪ができる」とでも言えば、彼を動かすことは難しくなかった。清水にとっては金銭的な実益を見込んだことだったが、伊東にとっては「愛する人」との絆を深める重要な儀式として捉えられていた。
そういう伊東にとって西尾の暴走は「完璧な計画を壊された」という意味合いがある一方で、「愛する人との絆をさらに深める儀式を邪魔された」という側面を持っていた。そしてこのように考えていくと、西尾狙撃事件についても全容がわかってくるのではないだろうか。そして、映画本編で描かれたまどろっこしい事件の動機も見えてくる。
「二人だけの秘密」になるはずだった西尾狙撃事件
表向き、伊東が西尾を殺そうとした理由としては、奪った資金を独占するため(コナンと服部の見立て)、あるいは自分の完全な計画を西尾に傷つけられたため(伊東本人の弁)、という説明が与えられる。しかし、どちらも人を殺す決定打としては弱いように思える。
西尾狙撃事件の全貌は清水麗子が計画した「完全犯罪」であり、西尾の殺害犯として仕立て上げられそうになったのが伊東だった訳だが、清水麗子は伊東に「完全になるはずだった計画を台無しにした西尾を消し、盗んだ資金を二人のものにしよう」という提案をしたのではないだろうか。
この筋書きは、伊東にとってきわめて魅力的であったはずである。それは彼の誇大な自意識を満たし、同時に清水との共犯関係をより濃密なものに見せる提案だからである。つまり、伊東にとって、
- 一件目では「犯罪を共有する秘密」を作る
- 二件目では「二人だけの秘密」を共有する
という目的があったことになる。このように整理してみると、本編の事件もまた同じ延長線上に置けるのではないだろうか。つまり、伊東が映画本編で発生させた謎の事件は、「警察への復讐」であると同時に、そこに清水麗子も関わっていたという二人だけの秘密を守るためだったということになる。
西尾正治狙撃事件の強烈な違和感
さて、以上のように、「伊東末彦と清水麗子が男女の関係になっていた」という前提にたつと、伊東の行動は非常によく分かるし、映画本編の犯行動機もわかるような気がする。しかし、もし伊東が本当に清水との共犯関係を信じていたのなら、なぜ本作終盤の問い「あなたが一番愛する人の名前は?(The name of person who loves most?)」の答えが清水麗子ではなく伊東末彦だったのだろうか。
この疑問を考える鍵になるのが、西尾狙撃とその後の事故をめぐる強烈な違和感である。まず西尾狙撃は、計画としてあまりにも杜撰である。ただの素人の伊東が西尾狙撃を成功できる可能性は極めて低い。伊東は、西尾が自分の狙撃で死亡したと本当に信じていたのだろうか。
伊東は、実際何発もライフルの弾丸を撃ち込まれているのに西尾がほとんど反応を見せなかったことも認識している。西尾が椅子ごと横に倒れたことをもって伊東は自分が殺したと言い張っていたが、焦っていた瞬間ならまだしも、後で冷静になれば不自然さには気づけたのではないだろうか。
さらに、伊東自身の車に細工がされていたことも重要である。あの事故を伊東は本当に「不運」で片付けていたのだろうか?彼が真面目に考えれば、西尾狙撃事件の目的が、指紋や硝煙反応を残させ、すべての責任を伊東に被せることだったことに気づいても良さそうなものである。
もちろん、伊東が最後までその全体像に気づかなかった可能性もある。だが、作中の違和感を並べると、彼がまったく何も察していなかったと考えるほうがむしろ不自然である。薄々でも、自分が利用され、切り捨てられようとしていたことは分かっていたのではないだろうか。
このように考えてみると、パスワードが「伊東末彦」だったこと、そして彼の隠された犯行動機が見えてくるように思われる。
伊東の犯行動機:壊れた恋愛幻想(ドリームランド)を守りたかった-「あなた」とは誰か?-
西尾正治狙撃事件の違和感に伊東が気づいていたとするなら、彼が必然的にたどり着いてしまう結論は「自分は清水麗子に利用されただけ」ということになる。
しかし彼にそれは信じたくないことだった。
となれば、本編で探偵たちに事件の真相を追わせた本当の理由は、警察に復讐するためでも、清水の関与を隠すためだけではない。探偵という第三者に、自分の抱いていた恋愛の物語を承認してほしかったのである。つまり、清水麗子が自分を愛していたことを証明してほしかった。自分一人の妄想ではない、閉じた世界の中の思い込みではない、と誰かに言ってほしかった。
そしてこのように考えれば、最後のパスワードが「清水麗子」ではなく「伊東末彦」だった理由も見えてくる。
「あなたが一番愛する人の名前は?(The name of person who loves most?)」の「あなた」を我々は伊東末彦のことだと考えてしまう。彼が自分のことしか愛せない人物であると。もちろんそれが自然である。しかし、彼の犯行動機が「麗子の愛情の証明」とするなら、「あなた」とは「清水麗子」のことにならないだろうか。
あのパスワードは「清水麗子が愛している人の名は伊東末彦」という、彼が望んだ帰結そのものだった。
そして、彼が隠れていた場所が「ドリームランド」であったことも象徴的あることも見えてくる。あれは、彼が逃げ込んだ「清水麗子は自分を愛していた」という恋愛幻想そのものであった。
彼の犯行動機を「自分のドリームランドを守るため」ということもできるかもしれない。なんとも儚い願いである。
伊東の犯行動機のまとめ
ここまで考えてきた伊東の犯行動機をまとめていこう。彼の犯行動機には次の3つのことが考えられた:
- 警察への復讐を果たすために探偵に事件の真相を暴かせ、警察に恥をかかせる
- 西尾狙撃事件に清水麗子が関与したという秘密を守る
- 「清水麗子も自分を愛していた」と証明させる
核心は3つ目ということになるが、どれか一つだけが伊東の真実であるということにはならないだろう。これら三つが同時に彼の真実であり、それが彼の中でもグチャグチャに混在していたのではないだろうか。
今回の考察では「伊東末彦と清水麗子は男女の関係になっていた」という前提を必要としたが、今回の事件を深く考えようとすると、伊東が清水麗子の自分への思いを信じていないと説明がつかないことだらけであった。作中で明言されていないので単なる仮説ということになるのだが、悪い線ではないだろう。
さらに、西尾や深山ともそのような関係にあったと考えるのも自然だと思うが、お子様が見ることが想定されている「名探偵コナン」においてそんなことをわかりやすく描くわけにはいかなかったということだろう。
いずれにせよ、なんとも空虚で切ない犯行動機だったという結論になる。この記事を読んでいるあなたなら、彼の犯行動機は何だったと考えるだろうか?
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