「かぐや姫の物語」は2013年に公開された高畑勲監督による劇場用アニメーション作品。キャッチコピーは「姫の犯した罪と罰。」であった。結果的に高畑勲監督の遺作となってしまった作品だが、興行成績21億円と、興行的には残念な結果となってしまった作品だった。同年公開の「風立ちぬ」を見に行った人はたくさんいたのだが、「かぐや姫の物語」については確かに少なかった。というより一人もいなかった。その辺の不満は以下の記事にまとめている:
今回は、「かぐや姫の物語」のあらすじをまとめると共に、原作である「竹取物語」との違いをまとめようと思う。ちなみに、あらすじと言っても全部話してしまうので、ネタバレが嫌な人は途中まで読んで本編を見てください。
「かぐや姫の物語」のあらすじ(ネタバレあり)
簡単なポイントまとめ
「かぐや姫の物語」のあらすじのポイントを短くまとめると以下のようになるだろう:
- 物語の主人公は竹から生まれた「かぐや姫」。竹林の中でかぐや姫を発見した翁(おきな)は家に持ち帰り、嫗(おうな)と共に自らの子として育てる。
- かぐや姫は驚異的な成長速度を見せ、その様から地域の子供達に「たけのこ」と呼ばれた。
- かぐや姫は捨丸(すてまる)をガキ大将とする仲間の子どもたちと山野を駆け巡り、生活を楽しんでいた。
- かぐや姫を発見した竹林から、立派な着物や金を発見した翁は、かぐや姫を立派な姫君に育て上げなくてはならないと一人奮起。手に入れた財源を用いて都での居城を手に入れる。
- かぐや姫は山での生活に後ろ髪を引かれながらも、翁や嫗と共に京都での暮らしを始める。
- かぐや姫は「立派な姫君」になるべく様々な教育を施されるが、そんな中初潮を迎える。
- かぐや姫が自身の体の変化に戸惑いを感じている状況とは裏腹に、翁はその事実に喜び、名のある貴族である斎部秋田(いんべのあきた)に「名付け」を依頼し、その美しさをたたえた秋田は「弱竹(なよたけ)のかぐや姫」と名付ける(このシーンの前まで翁はかぐや姫をただ単に「姫」とよんでいた)。
- それに続いて「髪上げの儀式(成人の儀)」を迎えたかぐや姫は、自分という存在が「もの」として扱われているという強い絶望を感じ「ここではないどこか」への逃亡を夢見るが、それは叶わなかった。
- かぐや姫の思いとは裏腹に、その美貌は貴族の中で大きな話題となり、5人の貴族の公達がかぐや姫に求婚する。
- かぐや姫はその貴族に無理難題を強いてその求婚を拒絶する。
- あの手この手の「でまかせ」を用いて実現不可能な難題をクリアしようとしたが、その作戦はすべて撃退されてしまった。
- 名のある貴族の求婚を退けたかぐや姫にだったが、その状況に帝が動き出す。
- かぐや姫が求婚を断った理由は自分こそを求めたからと信じて疑わたない帝であったが、かぐや姫に同じような拒絶を受ける。
- 帝という最大権力者の求愛を受け、逃げ場を失ったかぐや姫は「月への帰還」を強く願う。
- かぐや姫は地球そのものに対して後ろ髪惹かれる思いがあったのだが、月の民はかぐや姫を迎えに地上に赴く。
- 翁や嫗をはじめ、かぐや姫を奪還させたくないものが一団となってかぐや姫を守るが、月の民の不可思議な力の前になすすべなくかぐや姫を奪われてしまう。
- 月の羽衣を着たかぐや姫はその記憶を失ってしまうが、「地上」に対する不可解な感傷をもつのだった・・・。
基本的な流れは「竹取物語」を踏襲しているのだが、明確に違う点が存在する。
最も異なる点は、地上に降り立った「かぐや姫」の日々の生活ができるかぎり細かく描かれている点であり、結果的に浮き彫りになるのは「望まぬ状況への強制的な適応」である。
そして我々が決して忘れてならない事実は、我々は「かぐや姫」の本名を誰も知らないという事実である、
翁や嫗は「姫」と呼び、子どもたちは「たけのこ」とよんだし、その流麗さを尊んだ貴族は「かぐや姫」と語った。
でも、誰一人として彼女が月の世界でなんと呼ばれていたのか知らない。
そういった「その人不在の物語」が「かぐや姫の物語」と思うこともできるだろう・・・いやあ・・・しんどい話だよね。
ただ、そういう話と思っているの私個人だけかもしれないので、ここからは「かぐや姫の物語」をもう少し詳しく見てくことによって、「客観性」というものを維持していこうと思う。
竹から生まれた子供
物語は一人の翁(おきな)が、竹林の中でその根本が光る竹を発見するところから始まる。翁がその竹に近づいてみると、その根本から筍が生えてきた。その中からそれはそれは美しい姫君が現れた。
この子は天が自分に与えてくれたものに違いないと考えた翁は、その子を家に連れてかえることにした。
翁が家にその子を連れて行ったときにはまだ手に収まる大きさだったが、その子を嫗が受け取ると、みるみるうちに大きくなり人間の赤ん坊くらいの大きさに成長した。
嫗と翁はもらい乳のために近くの民家を訪れようとするのだが、その道中、嫗の体に変化がおき、母乳が出るようになった。
翁はその子を「姫」と呼び、それはそれは大切に育てた。一方で近くの子供達からは、不意に成長を遂げるその様子から「たけのこ」と呼ばれながら野山を駆けながら楽しい日々を過ごしていた。
一方、日々の作業としての竹取りをしている翁は、竹林の中から金や高尚な衣類を発見する。
都絵の移住と苦難の始まり
姫(たけのこ)は、野山での日々に満ち足りでいたが、翁は姫をこのままの状態においておいてはならない考え、竹藪で手に入れた資金を元手に都での生活を画策する。
そしてその日は突然訪れた。いつものように近くの子供達との交流から戻った姫に、翁は都に移り住むことを告げる。姫は友人に別れを告げることもできずに、都へと向かう。
山での生活から状況は一変したものの、その豪華な生活に少なからず喜びを感じてもいた。
しかし翁は姫を「一流の女性」とすべく、家庭教師を雇い、様々な教育を姫に施した。姫はそんな日々に退屈してはいたが、翁のためを思いその教育を受け続けるのだった。
そんな折、姫が初潮を迎える。
自らの身体の変化に戸惑う姫だったが、翁は大人になったと大喜びで、斎部秋田(いんべのあきた)に「名付け」を依頼することにした。
斎部秋田が姫に対面すると、この世のもとは思えないその美しさに驚愕する。その輝くような美しさを讃え「弱竹(なよたけ)のかぐや姫」という名を与えた。
名付けが終わると、髪上げの儀式として有力者を集めた宴会が催された。盛大な宴会であったが、奥の部屋で控えているだけのかぐや姫にとっては退屈なものであった。そんな折、宴会の客の数人が、かぐや姫に合わせるように翁に詰め寄る。翁は「しきたり」を理由に懸命に断るが、そんな翁に対して罵詈雑言がぶつけられる。その発言を聞いたかぐや姫は、自らをものとしてしか扱わない状況に絶望し「ここではないどこかへ」と疾走する。
ボロボロになりながらふるさとの山にたどり着いたかぐや姫だったが、そこで力尽きてしまう。
しかしふと気がつくと、かぐや姫は再び宴会の場に戻っていた。ようやく自分の内面を爆発させたかぐや姫だったが、何も帰ることはできなかった。
その日からというもの、かぐや姫は家庭教師の言うことをよく聞くしおらしい女性になっていった。何かを諦めてしまったかのように。
5人の貴族
そんな折、斎部秋田からかぐや姫の美しいさまを直接耳にした5人の貴族が、かぐや姫のもとを訪れる。
5人の貴族はかぐや姫の気を引くべく、口からでまかせを並べ立てるが、かぐや姫からその「でまかせ」を実現してくれた人のもとに行くと告げられると、バカにされたと思った貴族たちはそそくさと帰ってしまった。
それから3年の月日が経った。
一度は手を引いた貴族たちだったが、自らの「でまかせ」をなんとか実現しようとあの手この手を尽くす。その途中で生命を落とすものまで現れたが、結局かぐや姫側に撃退されてしまい、誰一人としてかぐや姫を手に入れることはできなかった。3年もの時間を費やしたのに。
帝からの誘いと月への帰還
5人の貴族を退けたかぐや姫だったが、その噂はついに帝のもとに届く。5人もの名のある貴族しりぞけたかぐや姫は、自分を求めているに違いないと信じて疑わない帝は、かぐや姫のもとを訪れる。
かぐや姫が自分を拒絶する可能性など微塵も考えない帝は、強引にかぐや姫に言い寄った。
これまでに経験したことのない強引な帝の行動に、かぐや姫は心の底から「逃避」を願った。次の瞬間かぐや姫の姿が消え、帝の前から姿を消してしまった。その奇っ怪な状況に、帝も少々反省したようで、かぐや姫に再び姿を表すように懇願した。
しばらくするとかぐや姫は再び姿を現したが、どうも先ほどと様子が異なりこの世のものとは思えない雰囲気を醸し出していた。
ことをせいてしまった帝は、かぐや姫の屋敷を後にするが、かぐや姫本人は今回の一件で重要な事実を思い出してしまう。
かぐや姫はもともと月の住人であった。それを姫は忘れていたのだが、帝に言い寄られたその瞬間に、月に助けを求めてしまった。かぐや姫は何度も月に対して自分を救出に来ることをやめるように懇願したのだが、その運命を帰ることはできなかった。
その事実をしった翁と嫗は、帝の力を借りて、かぐや姫を付きの住人から守ることを決意する。
運命の時が迫るかぐや姫は、思い出のふるさとの山を訪れる。そこで偶然捨丸に再開する。捨丸にはすでに家族があったが、かぐや姫は捨丸との最後の逃避行を試みる。
かぐや姫は捨丸と忘れ得ぬ時間を過ごすことができたが、月から逃れることはできなかった。
そして運命の夜。
かぐや姫の屋敷は多くの人員を動員して防衛されていたが、そこに訪れた月の住人の不可思議な力の前になすすべもなかった。
屋敷の奥に隠れていたかぐや姫も、不可思議な力によって月の住民のもとに呼び寄せられてしまう。
それでもなおかぐや姫は翁と嫗に最後の別れを告げようとするが、結局かぐや姫は月の羽衣を着させられ、月の世界へと旅立ってゆく。
月の羽衣をまとったかぐや姫は地上での記憶を失ってしまったが、それでもなおかぐや姫のなかに青い地球に惹かれる「何か」が残っていた。
しかしかぐや姫はそれを思い出すことはできない。
姫にとって、地上での日々はどのような意味を持っていたのだろうか?我々はそれを考えなくてはならない。
以上が個人的にまとめてみた「かぐや姫の物語」のあらすじである。基本的には「竹取物語」なので、物語上は真新しいものは無いように思われるかもしれないが、個人的にはぜひとも見てほしい作品である。まとめを読むのと本編を見るのとでは、絶対に違うので。
続いては、「かぐや姫の物語」と「竹取物語」の違いについてまとめようと思う。まとめた部分以外にも異なっているところはあると思うけれど。
「かぐや姫の物語」と「竹取物語」の違い
長々と「かぐや姫の物語」をまとめてきたが、表面的なところを述べると「竹の中から出てきた娘を老夫婦が育て、竹から出てくる宝で財をなし、5人の貴族に求婚されるがものの見事に袖にして、天皇から求婚されるものの、最終的には月に帰る」という話であった。これだけなら「竹取物語」と同様であるが、決定的な違いもある。
「かぐや姫の物語」と「竹取物語」の違いは以下の点ということになるだろう:
- 野山での暮らしが丁寧に描かれていること
- 逆に、5人の貴族からの求婚は相当に省略されていること
- 天皇の好意を断った理由が異なること。
- 時間経過
野山での暮らしを描くことは「かぐや姫の物語」の重要なテーマの1つ立ったと思われる。野山での暮らし以外でも、都での生活をキチンと描いている。やはり「生活」を描こうとするのは高畑監督らしいといったところだろうか。
ただ、5人の貴族からの求婚についての話が省略されていることは極めて特筆すべきことと思う。というのも、どうかんがえても「竹取物語」のハイライトはこの5人の貴族のエピソードとなっているからである。
皆さんも学校で「竹取物語」を読んだと思うが、5人の貴公子の物語はかぐや姫の異質さを強調するとともに、色んな日本語表現が生まれたトピックスとして描かれている。つまり、コメディーとして描かれている。
かぐや姫に言い寄った5人の貴族は、
- 石作皇子(いしづくりのみこ)
- 車持皇子(くらもちのみこ)
- 右大臣阿部御主人(うだいじんあべのみうし)
- 大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)
- 中納言石上麻呂(ちゅうなごんいそのかみのまろ)
であり、それぞれ
- 仏の御石の鉢
- 蓬莱の玉の枝
- 火鼠の皮衣
- 龍の首の珠
- 燕の産んだ子安貝
をかぐや姫から要求されたが、もちろん手に入れられるわけもなく、五人はなんとか嘘をこいてかぐや姫を騙そうとした。
「竹取物語」はかぐや姫からの要求になっているが、「かぐや姫の物語」では公達どもの発言を受けてかぐや姫が要求した形になっている。この点も原作と異なっている。
しかしものの見事にその嘘が見破られ、それぞれ事の顛末が由来となり
- はぢをすつ(恥(鉢)を捨つ)–図々しい様
- たまさかる–正気を失ってぼうっとする様
- あえない–張り合いがないこと
- あなたげがた–割りに合わないこと
- 甲斐なし–思ったことに反すること
という言葉が生まれたことになっている。この5人の貴族の話は本当に事細かに語られており、ここを書きたかったのではないかと思うくらいのものである。
しかし「かぐや姫の物語」では「おまえらのことなんがどうでもいいんだよ」と言いたいのか、本当にぞんざいに扱われている。その代わりに、やはりかぐや姫の日々が事細かに描かれている。
また、天皇との関係も完全に真逆に描かれている。「竹取物語」では、最初こそかぐや姫は天皇の求婚を退けるのだが、その理由は「自分が異界の存在であり、いつか地上からいなくなる運命にあるから」であった。最終的には文をやり取りする仲になっており、実のところ帝からの求婚はかぐや姫にとっては悪いものではなかったという事になっている。
一方「かぐや姫の物語」では、作り手の悪意が満ち溢れるデザインで描かれた帝からの求婚(求愛)を、露骨に、完全に、明確に拒絶している。
ただ問題なのは、何故そのような展開に変えたのか?ということである。
1つの考えた方としては、その方が自然であるから、ということになるだろう。平安時代に成立した物語として、最終的に天皇と懇意になったということになれば、貴族を袖にしたことも合理化されるかもしれないが、現代劇として考えるならば、相手が帝だって嫌に決まっている。
かぐや姫が人間ならまだしも、月の住人なのに帝の妃になることを無条件に受け入れる方がおかしいだろうということである。
そしてこの改変に関連して、「かぐや姫の物語」では時間経過が原作とは異なっている。
原作の「竹取物語」に於ける時間経過のタイミングは2つ存在しており、五人の貴公子と会った後の3年と帝との謁見後に文通を交わした3年である。つまり、原作では最低6年の時間が経過していることになる。
しかし、「かぐや姫の物語」では帝を拒絶するように改変がなされたために、帝に会った後の3年が存在していない。かぐや姫は本当に僅かな間しか地上におらず、しかもそのほとんどを自らが望まなかった都ですごしていることになる。
この事実だけでも少々しんどい思いにかられる。
「かぐや姫の物語」における「姫の犯した罪と罰」
「かぐや姫の物語」といえば「姫の犯した罪と罰」という極めてキャッチーなフレーズであろう。映画館での特報で何度も目にしたフレーズである。
では「罪と罰」とは一体何だったのか?そのことについては以下のページにまとめている。
この記事は「姫の犯した罪と罰」を最も深刻に捉えて書いたものなのだが、一点だけ自分自身納得できなかった部分があった。それが「罰」である。
「竹取物語」に置いてもかぐや姫は罰せられたことになっているのだが、どうやら月世界は「悩みのない世界」のようである。そんな世界に「罰」という概念が存在するのだろうか?この辺のことが最後の最後までピンと来なかったために、もう少しだけ考えたのが以下の記事である:
さて、本当にかぐや姫は罪を犯し、罰を受けたのだろうか?
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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