「海がきこえる」は1993年5月5日に日本テレビ系列で90分の作品として放送されたアニメーション作品である。
今回は「海がきこえる」の登場人物と声優を振り返りながら、それぞれの魅力や物語について考えていこうと思う。「海がきこえる」の登場人物はどんな人々だったのだろうか?
以下の文章では不意にネタバレが挟まれますので、その点はご注意ください。
「海がきこえる」の主要登場人物と声優一覧
名前 | 年齢 | 声優 |
---|---|---|
杜崎拓 |
高校2年~大学1年 | 飛田展男 |
武藤里伽子 |
高校2年~大学1年 | 坂本洋子 |
松野豊 |
高校2年~大学1年 | 関俊彦 |
小浜祐実 |
高校2年~大学1年 | 荒木香恵 |
山尾忠志 |
高校2年~大学1年 | 緑川光 |
清水明子 |
高校2年~大学1年 | 天野由梨 |
登場人物と声優の基本情報とキャラクター考察
杜崎拓|声優:飛田展男
杜崎拓の基本情報
物語の主人公の大学1年生。高知出身で物語の開始時点では東京で学生生活を送っている。「海がきこえる」は、彼が高校の同窓会に出席するために地元に帰る際の回想が物語の中心となっている。
彼は物語の登場人物ではあるのだが、物語そのものが彼の回想であるがゆえに「海がきこえる」は「杜崎拓の主観の物語」となっている。物語のナレーション兼モノローグがすべて杜崎拓の声であることからもそれが分かる。
したがってこの物語には全くもって客観性がなく、「杜崎拓が見たもの」、「杜崎拓が体験したもの」、「杜崎拓が感じたこと」で「海がきこえる」は満たされている。
したがって彼以外の登場人物は、彼が見た表面的なもので構成されているのだが、杜崎拓の目線を利用して彼以外の登場人物の内面を想像することが「海がきこえる」の面白さの一つとなっている。
ただ・・・彼のモノローグがすべて「真実」といえるかとなるとそれも少々違う。
それは我々自身も同様なことで、例えば学生時代に自分が惚れている相手を前にした時に「好きだ好きだ好き好きだ!」なんて思っていただろうか。そういう人もいるかもしれないが、実のところそういう本心を何故か押し殺していたのではないだろうか。誰も聞いていないのに。
「海がきこえる」においても同様のことが起こっていて、彼は彼自身の本音を狡猾に隠蔽している。そしてそれが隠蔽に過ぎなかったことが物語のラストにわかってくる。
もちろんこの隠蔽は我々の目からは明らかなのだが、そういった「青春の機微」を楽しむことも「海がきこえる」の楽しみ方の一つだと思う。
この辺のことは以下の記事にもまとめていますのでぜひご一読ください:
声優の飛田展男さん
杜崎拓の声を演じたのは声優の飛田展男(とびたのぶお)さん。多くの作品で声を担当しており、「機動戦士Zガンダム」のカミーユ・ビダンも飛田さんである。言われればカミーユと同じ人が声を担当しているとわかるのだが、実際に調べてみるまであまり意識することはなかった。
カミーユよりも意外なところでは「ちびまる子ちゃん」の丸尾も飛田さんが担当している。確かにカミーユ要素や杜崎要素が入っていることが分かるが、これも調べてみて初めて気がついたことだった。
武藤里伽子|声優:坂本洋子
武藤里伽子の基本情報
物語のもう一人の主人公。杜崎拓と同学年で大学1年である。
東京出身の彼女が、地方高知の高校に転校し「東京という風」を二人の男にぶちかましてしまったことから物語が始まっている。正確に言うと勝手にぶちかまされただけなのだが、杜崎拓と彼の親友松野豊にとっては強烈なパンチだった。
これが東京を舞台にした物語なら「東京ラブストーリー」となって「武藤里伽子は僕にとって東京そのものだった」という終わり方になるのだろうけれど、舞台が高知であることと彼らが高校生であることによってそれが回避されている。
これは極めて個人的な見解だが、男が見るなら「東京ラブストーリー」より「海がきこえる」の方がおもしろのではないだろうか?異論は広く認めます。
もちろん武藤里伽子は主人公たちにとっての強烈なパンチであり続けただけでなく、物語の中できちんと成長を遂げている。東京という場所を離れ、別の人間関係、あるいは価値観に触れたことによって、彼女は自分が以下に一面的なものの見方しかできていなかったのかということを悟り、一種で大人になっている。
ご都合主義にも見えなくはないが、それこそ「そんなもんだろう」といったところだろう。人間なんてほんの一瞬で成長もできるし、堕落もできる。人との出会いというのは本当に大切なものだね。
声優の坂本洋子さん
声を担当したのは元舞台女優の坂本洋子さん。アニメの声優としてはOVA「しにがみのバラッド。」第6話で小堺桜を演じている(監督は「海がきこえる」の望月智充)。
また「海がきこえる」のエンディングテーマ「海になれたら」を歌っている。
松野豊|声優:関俊彦
松野豊の基本情報
物語の影の主人公で左利き。杜崎拓の親友にして悲しき噛ませ犬だった男でもある。彼の武藤里伽子への恋心は、親友杜崎拓の手によって無惨にも叩き壊される。
頭脳明晰でおそらく京都大学に進学したと思われるのだが、ただただ勉強ができるというタイプでもなく、強い信念をもてる男だった。はっきり言って「物件」として買いなのはどう考えても杜崎より松野だと思うのだが、人生とは不条理なものである。
それにしても惚れた相手に「きもちわるい」と言われて登校拒否に陥らなかった松野のハートはなかなかのものである。彼の持つ鋼鉄のハートがこの物語を支えていたとも言えるかもしれない。
彼の未来に幸多からんことを祈るばかりである。
声優の関俊彦さん
声を担当したのは声優の関俊彦さん。非常に多くの作品で声を担当している方で、関さんの声を聞かずにおとなになるのは相当に困難だったと思う。
個人的に思い出深いものとしては、「お~い!竜馬」の坂本龍馬、「白鯨伝説」のデュウ、「忍たま乱太郎」の土井先生の声を担当している。
小浜裕実|声優:荒木香恵
小浜裕実の基本情報
高知、あるいは転校した高校に馴染めなかった武藤里伽子の唯一の友人。親友と言ってもいいだろう。彼女の存在がなければ武藤里伽子の高校生活は全く異なるものになっていたに違いない。
本編中彼女が行った最大の仕事は、里伽子が画策した東京旅行を杜崎拓にバトンタッチしたことだろう。松野としては「何故俺じゃなかったんだ」と小浜祐実を呪ったに違いない。
ただ、少々うがった見方をしてみると、東京旅行が終了するまで里伽子にとって小浜祐実はその計画実現のための道具に過ぎなかったのではないだろうか。実際里伽子は小浜祐実に執着すること無く、一緒についてきてくれるというだけで杜崎拓とともに旅をしている。
ただ、東京旅行で急激な人間的成長を遂げた里伽子にとってはかけがえのない友人になったのだろう。
いずれにしても、いい仕事をした。杜崎拓にとって。
声優の荒木香恵さん
声を担当したのは声優の荒木香恵さん。主役を担当することは少ないようだが、多くの作品で声を担当している。有名所では、「美少女戦士セーラームーン」のちびうさ、「デジモンアドベンチャー」の八神ヒカリ、「新機動戦記ガンダムW」のヒルデ・シュバイカー等がある。
山尾忠志|声優:緑川光
山尾忠志の基本情報
杜崎拓の友人。物語中ちょくちょく登場するが、彼は本当に必要だったのだろうか?杜崎拓の友人関係が極端に狭いものにならないように配置されているように見えてしまう。
我々が彼について知りうることは、どうやら小浜祐実のことが好きだったこと。酒の勢いに任せて同窓会でその思いをゲロったこと。
それ以上でもそれ以下でもない。
声優の緑川光さん
声を担当したのは声優の緑川光さん。私の世代なら「スラムダンク」の流川楓が一番有名かもしれない。それ以外にも「南国少年パプワくん」のシンタロー、新機動戦記ガンダムWのヒイロ・ユイ、「遊戯王」の海馬瀬人など多くの作品で主要キャラクターの声を担当している。
清水明子|声優:天野由梨
清水明子の基本情報
文化祭の準備を手伝わないという理由で里伽子を諭した人物。本人としては良かれと思ったのかもしれないが、同級生から諭されることほど腹がたつことはない。
最終的には複数人で激詰めしているのだから対して大人な人物でもなかった。同窓会の席で「子供だった」と軽く振り返っているが、そのように振り返ることができるのは武藤里伽子が鋼鉄のハートを持っていたからに過ぎない。彼女がもう少し弱かったら、「子供だった」では済まされないことになっただろう。
私も高校の文化祭には情熱を傾けたほうだったが、必ずしもすべての同級生が乗り気はなかった。彼らにとっては苦痛の時間だったに違いない。学校という閉鎖空間で生きるということは「自分ならざるものを許容する」という意識を強く持つことが求められるが、それを持っていない存在を「子供」と呼ぶのである。
なんとも矛盾に満ちた状況が平然とそこにあるわけだが、一体どうしたら良いのだろうか?
声優の天野由梨さん
声を担当したのは声優の天野由梨さん。「幽遊白書」のヒロイン雪村螢子の声優も務めている。だが、私にとっては「機動武闘伝Gガンダム」のレイン・ミカムラの声と思うほうがしっくり来る。
その他の登場人物
校長|声優:渡部猛
中学3年の杜崎拓らに「修学旅行の中止」を宣言した人物。最終的にはその御蔭で杜崎拓は待つのに出会うことができたわけだからある意味いい仕事をしたということになるだろうか。
ただ、その原因は進学実績の低迷だったのだから、勉学を怠った先輩たちが一番いい仕事をしたということかもしれない。
川村|声優:徳丸完
「修学旅行の中止」を受けた杜崎たちが学級担任に抗議をしていたところ「先生が女だからといって馬鹿にしてるんだろう」と息をするように差別発言をした教諭。彼がその差別意識に気がつく日はないのだろう。
その直前に打ち負かされた事によって正気を失っていたと信じたいが、ああいう大人にはなりたくない。
里伽子の父|声優:有本欽隆
彼が品行方正な人物だったら「海がきこえる」はなかった。もしかしたら一番の功労者なのかもしれない。
里伽子の突然の訪問にうろたえてはいたが、なんやかんやと愛人とうまくやっていくのだろう。あの跡一発喧嘩くらいはしたのだろうか。
岡田|声優:金丸淳一
「いけ好かない」の権化のような里伽子の元彼。里伽子にとって杜崎拓が特別な存在になったのは岡田を含む三人での会話のシーンだろう。
岡田と里伽子はそれこそ高校生らしく会話をしているわけだが、自分の母親から「親の思い」についての演説を聞いたあとの杜崎は二人を「子供」と切り捨てた。
杜崎が母からその話を聞いていなかったら「海がきこえる」は全く異なる話になっただろう。
杜崎拓の母|声優:さとうあい
上に述べたように、はからずも自らの息子に「ナイスパス」をした母。
杜崎本人がそのことに気がついているかどうかは分からないが、もし気づいているなら永遠に頭が上がらないだろう。
おかみさん|声優:鈴木れい子
「拓、電話ぞね。」といっていたバイト先のおかみさん。
見習い|声優:関智一
拓のバイト先の板前見習い。
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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