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君たちはどう生きるか」のあらすじ(ネタバレ)・考察と解説・人物相関図

「君たちはどう生きるか」の主人公眞人の横画を背景に「『君たちはどう生きるか』ってどんな話?」というタイトルテキストを重ねたアイキャッチ
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君たちはどう生きるか(スタジオジブリ公式)」は2023年7月14日に公開された宮崎駿監督による劇場用アニメーション作品である。興行収入は94億円であった(参考資料「日本映画製作者連盟『2023年度全国映画概況』」)。

タイトルの元になっているのは吉野源三郎による同名小説であるが、「原作」というわけではなく主人公眞人の母が彼のために遺した本として登場する。その本との出逢いは本編における重要な「段落」となっている。

私は見事に宮崎駿に騙されて「風立ちぬ」で引退するものとばかり思っていたのだが、新作の情報が出たときにはとても嬉しかった。

ただ「なぜ新作を作ろうと思ったのか?」という疑問も当然湧くのだが、ここで言える一つの重要なポイントは、この映画は「眞人のモノローグで始まり、眞人のモノローグで終わる」ということだろう。

つまり、この映画は成長した眞人が思い出している物語であり、彼の主観の物語であるということになる。

今回はそんな「君たちはどう生きるか」のあらすじを振り返りながら、その内容についての考察と解説を行なっていこうと思う。この映画はどんな作品だっただろうか?

*以下「あらすじ」と言っても全部話してしまうので、ネタバレが嫌な人は途中まで読んで本編を見てください。

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AIによる音声サマリー

この記事の内容を、AIが対話形式(ラジオ形式)で分かりやすく解説してくれます。

  • 詳細なあらすじと人物相関図
    本作のあらすじを要約すると「11歳の少年、牧眞人は母を失った傷を抱え、疎開先で新しい生活を始める。複雑な心情の中、彼は不思議な塔と青サギに導かれ、失われた家族や過去と向き合わせられる。塔の中での冒険を通じて、眞人は自らの成長と家族の絆を再認識し、時空を超えた選択を迫られる。最終的に、戦後の再出発とともに、眞人は新しい人生を歩み始める。」となるが、より詳細なあらすじ、人物相関図、物語の解説を提供する。
  • 様々な考察ポイント
    「優しい父」、「炎の母」、「謎の隕石」、「火事場を走る眞人」、「インコとペリカンの意味」、「『冷たい石』にまつわる『8』と『13』という数字の意味」「青サギのモデル鈴木敏夫」といった考察ポイントを解説し、より詳細な記事(本ブログ内)を紹介する。

君たちはどう生きるか」のあらすじ(ネタバレあり)

映画「君たちはどう生きるか」の登場人物 眞人と青サギを背景に「友達をつくります。」というキャッチコピーを重ねた見出し

簡単なポイントまとめと人物相関図

「君たちはどう生きるか」のあらすじのポイントを短くまとめると以下のようになる:

あらすじのポイント
  1. 少年・眞人の疎開
    物語の主人公は11歳の少年 眞人(まひと)。火事で母を失い、太平洋戦争勃発から3年後に、父とともに母の故郷に疎開する。
  2. 父の再婚相手との生活と葛藤
    疎開先では父の再婚相手で実母の妹である夏子(なつこ)との生活が始まるが、眞人は母の死を消化できず、夏子との距離を測れずにいた。
  3. 不思議な塔と青サギの囁き
    状況に馴染めない眞人は屋敷の敷地内にある不思議な塔に惹かれ、そこを巣にしている不思議な青サギから「母が待っている」と囁かれる。
  4. 夏子の失踪と塔への探索
    そんな折、妊娠中の夏子が行方不明となる。夏子が森に入っていくのを目撃した眞人は使用人のキリコと共に塔に向かう。
  5. 謎の老人との遭遇
    塔の中で不思議な老人に出くわした眞人たちは「下の世界」へと誘われる。
  6. インコが支配する「下の世界」
    「下の世界」は「上の世界」とは様相の異なる不思議な世界であり、人間のようなインコたちが支配する世界だった。
  7. 青サギとヒミの真実
    眞人はその世界で青サギ、そしてヒミと呼ばれる少女と協力して夏子を救出する。その中で、ヒミはかつて眞人たちと同じように塔の中で「神隠し」にあった子供の頃の眞人の実母であることが分かる。
  8. 塔の支配者・大伯父の存在
    塔の中にいた謎の老人は眞人の母や夏子の大伯父にあたる人物で、塔の中で「下の世界」を支配していた。
  9. 大伯父の後継者要請と拒絶
    大伯父は眞人に自らの後を継ぐように要求するが、眞人はそれを拒否し元の世界に帰ってゆく。
  10. 新たな一歩
    戦争終結から2年、眞人は家族とともに東京へ帰るのだった。

人物相関図

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詳細なあらすじ

母の死と疎開先、眞人を誘う「不思議な塔」

物語の主人公は11歳の少年 牧眞人(まきまひと)。太平洋戦争勃発から3年が経ったある夜、病院で発生した火事によって入院中の母を失ってしまう。翌年、眞人はその傷を抱えながら父 勝一(しょういち)と共に母方の実家に疎開するのだった。

眞人の新たな生活を父の再婚相手で母の妹である夏子(なつこ)が、お腹の中にいる勝一との子供のとともに迎える。眞人はその事実に複雑な感情を抱きながらも新たな生活を始めるのだった。

駅で勝一と眞人を迎えた夏子

新たな生活の中で、消えない母の喪失の悲しみと中にいた眞人だったが、広大な屋敷の庭に住み着いていた青サギに誘われるように、古びた塔にたどり着く。どうやら青サギはそこを巣にしているようだった。眞人は塔に入り込もうとするが、不可思議な内部構造がその侵入を阻んだ。

その塔は夏子と母の大伯父が建てたものであり、その中で本を読みすぎた大伯父は「変になった」と夏子から語られる。大伯父はその後行方がわからなくなった。

夏子や屋敷の使用人は眞人を大切に扱ってくれてはいたが、状況を肯定できずにいた眞人はその不思議な塔に心惹かれてゆく。

母は待っている」謎の青サギと眞人の自傷

疎開先で学校に初登校する朝。軍需工場を経営する父 勝一は、眞人を車(ダットサン)で送ると言い出す。

案の定そんな眞人は同級生から目をつけられ、帰り道に喧嘩をする羽目になる。泥だらけで屋敷に戻る眞人はその途中、道端にあった石で自分の右頭部を傷つける。流血しながら戻った眞人はしばらく静養し学校を休むことになった。

傷ついた眞人に夏子を始め屋敷の人びとは優しかった。父 勝一に至っては「学校に怒鳴り込む」と言い出した。

そんな折、自室のベッド寝ていた眞人のもとに窓から入り込んだ青サギが現れる。その青サギは「まひとたすけて」と不気味な声を上げ、去っていくのだった。その不可思議な青サギは、再度眞人の前に現れ「ははぎみのもとへあんないする」、「たすけをまっている」とまで言い出す。

不審に思った眞人は、怪しげな青サギと対峙するため、その羽根を使った弓矢の作成を開始する。

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夏子の失踪と「下の世界」への突入

そんな折、眞人は母が自らのために残してくれた書籍「君たちはどういきるか」を発見。その内容に感銘を受けた眞人は、母の愛情を深く理解すると共にその死を受け入れられるようになってゆく。

時を同じくして、夏子が姿を消したと屋敷が騒然となる。

夏子が森の中に入ってく姿を目撃していた眞人は、使用人のキリコと共に森を分け入って塔にたどり着く。

初めて来たときとは打って変わって、巨大な扉が眞人を誘うように開いていた。その中から聞こえた「お待ちしておりました」という青サギの声に導かれるように、眞人は塔に侵入。眞人を心配するキリコも一緒に入り込んでしまった。

青サギに導かれて塔の中央部にたどり着くと、青サギが前に言っていたように、そこには横たわる母の姿があった。しかし、眞人が近づくとその姿はドロドロに溶けて消えてしまう。その様子を見た青サギは「惜しいことをしましなあ。いい出来だったのに」と告げる。

怒る眞人が放った一矢が、見事に青サギのくちばしに命中。それまで雄弁に語っていた青サギはその力を失い、その姿も鼻のでかい小さいおっさんに変わり果てていた。

小男の姿を現す青サギ

そんな青サギに対して「夏子さんのところへ連れて行け」と詰め寄る眞人。

対応を決めかねていた青サギに、塔の上階からなぞの老人が「愚かな鳥よ。お前が案内しゃになるがよい」と告げる。

「しょうがねえなあ」と青サギがその声に応えると、眞人、キリコ、青サギは塔の床に吸い込まれて行くのだった。

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ワラワラとペリカン、そして火を操る少女「ヒミ」

眞人はゆっくりと不思議な世界の海岸線に降り立つ。水平線には数多の帆船が見えた。

眞人はその世界で一人の中年女性と出会う。魔法のような力を使うその人は、どうやら漁師のようであった。行く宛のない眞人はとりあえずその女性の仕事を手伝うことにする。

近くでその人を見るうち、眞人はその人がキリコであると感じ始める。キリコ本人はそれを否定するが、眞人には確かにそう思えた。

その夜、眞人はその世界にいる「ワラワラ」というまん丸真っ白な存在が、飛翔している姿を見る。キリコによると「上の世界」にいって人間になるそうな。

満天の星空へ舞い上がるワラワラを見守る眞人とキリコ

眞人がその幻想的な状況に感動を覚える中、海の向こうからペリカンたちがそのワラワラを捕食するために飛来する。

そこに、火の巫女「ヒミ様」が現れる。ヒミはその火の力をもってペリカンを退治する。しかし、その火の力を持って僅かなワラワラも犠牲になっていた。

そして眞人は傷ついたペリカンとも対峙する。最初はペリカンに対して悪意を持っていた眞人であったが、そのペリカンとの対話の中で「循環」としての必然に気がついてゆく。そして力尽きたペリカンを丁重に埋葬するのだった。

そんな時、再び青サギが現れる。彼は夏子のところへ案内するというが、眞人は取り合わなかった。それでも、世話になったキリコの言葉に従い、ふたりで夏子を探しに行くことを決める。

眞人はお守りとして、老婆のキリコに似た小さな人形をもらうのだった。

一方その頃、神隠しのように、夏子、眞人、キリコがいなくなった世界で、勝一はその行方を全力で探していた。

そして使用人の一人から聞き知る。大伯父が建てたと思われていた塔は、明治維新の前に落ちてきた隕石が元になっていたということを。そして、眞人の母 ヒサコも幼少期に神隠しに遭っていたことを。

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産屋での夏子の拒絶と、インコたちの支配

眞人と青サギは夏子が囚われいる場所に向かうが、そこは人間のようなインコ達が支配する場所だった。その状況を突破し、夏子の下へ向かうために青サギが囮になる一方で、眞人は再びヒミに出会う。

眞人がヒミに「夏子という人を探している」というと、ヒミは「妹か!」と応えた。そして、ヒミは眞人を導いていゆく。どうもヒミは状況をすべて把握しているようだった。

ヒミは眞人を多くの扉が並ぶ部屋に連れて行き、その1つが眞人が来た世界につながっていることを示す。ヒミは暗に眞人に帰るように促すが、眞人は夏子を連れ帰りたいという。

そんな眞人にヒミは「夏子は帰りたくないといっている」と告げる。夏子は赤ん坊を産むためにこの「下の世界」を選んだようだ。

それでもヒミは眞人を夏子の下に連れて行くが、眞人は夏子からの痛烈な拒絶を食らってしまう。眞人はそのとき、大人である夏子も「状況」に苦しんでいたことにようやく気がつくことができた。

そして眞人は叫ぶ「母さん帰ろう!」と。

しかし、不可思議な力が2人を再び断絶する…。

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世界の主「大伯父」の要請と眞人の選択

気がつくと、眞人はインコの調理場に吊るされていた。どうやらインコたちは眞人を食おうとしいるらしかったが、その絶体絶命の窮地を救ってくれたのは、再び現れた青サギであった。

眞人は青サギと共に、ヒミを探す。

一方、どうやら「下の世界」にいるインコ達は大伯父に対して反旗を翻そうとしてるようだった。

インコたちは眞人とヒミが産屋に侵入するという「禁忌」を犯したこと、そして、ヒミも眞人も大伯父の血族であることを理由に大伯父の座を奪おうとしていた(大伯父は血族にのみその座を継がせようとしていた)。そのためにヒミを人質にしていたが、大伯父の訴えを受けヒミを開放してみせた。しかし、交渉にあたったインコの王は次の状況に備えていた。

大伯父の城で王位を主張し剣を掲げるインコの王と群衆

眞人と青サギは独自に大伯父の下にたどり着くとともに、ヒミとの再会をはたす。

そして、眞人は不可思議な世界の主人である大伯父と対面するのだった。

世界の崩壊とヒミとの別れ、そして現実への帰還

広大で、不可思議で、人間のように振る舞うインコのいる世界を、大伯父は眞人に引き継ぐように要請する。

それは血族である人間にしかできないことであると大伯父はいう。そしてその世界は崩壊寸前であると。

しかし眞人はそれを拒否する。大伯父が作ってきた世界は「冷たい石」だと。

それを見ていたインコの王は「自分こそが引き継ぐ」と剣をふるうが、すでに崩壊間近にあったその世界は、インコの王の傍若無人によって崩れ始める。

大伯父は望まなかったその結末をも受け入れ、ヒミと眞人に「時の回廊(扉のたくさんあった部屋)」へ向かい、自分の時間に戻るように告げる。

世界が崩れるなか、キリコに連れられて夏子もそこに現れる。

「自分の時間」に戻れば、ヒミは自分の母として死んでしまうことをしっている眞人はそれを躊躇するが、ヒミは言う「素敵じゃないか、眞人を生むなんて」。

眞人、キリコ、夏子、ヒミはそれぞれの時間に帰っていくのだった。

戦争が終わって2年後。眞人は、父、母、そして弟ともに東京に帰るのだった。

君たちはどう生きるか」の考察と解説

映画「君たちはどう生きるか」の主人公・眞人の後ろ姿を背景に「あふれる謎と疾走する眞人」というキャッチコピーを重ねた見出し

大伯父や謎の隕石、父、母(ヒミ/夏子)は何を象徴する?

結論

大伯父はアニメ監督としての宮崎駿自身(あるいは高畑勲)を、彼を狂わせた隕石はアニメーションそのものを象徴する。父は宮崎監督の父であり、ラストでは宮崎監督自身が投影される。実母ヒミは監督が会えなかった若く快活な母の姿、継母・夏子は病床にあった母への複雑な感情(近づきがたさ)が投影されているのである。

この記事の冒頭で述べたように、眞人のモノローグから始まるというこれまでにない演出があったわけだが、「息子の父としての父」が明確に描かれたこともこれまでになかっただろう。

正確に言うと「崖の上のポニョ」で宗介の父が登場しているが宗介とのふれあいは全く描かれない。その一方、息子の近くで愛情を注ぐ父の姿がこの映画では描かれている。それはなぜだったのだろうか?

一方で、これでもかと「母」が描かれたことも重要な特徴だろう。これまでの作品の中にも宮崎監督の母が投影されたと思われるが、これほど明確に「母」という存在が中心に出てきたことはなかっただろう。

しかも、亡くなった実母、青サギがつくった偽の母、子供の頃の母(ヒミ)、そして夏子と細かく分けると4パターンの「母」が登場する。これはなにかしらの意図を感じるのだがそれはなにか?

そしてもう一人、何やら意味の分からん存在として出てくるのが大伯父とその心を狂わせた謎の隕石である。

「君たちはどう生きるか」の制作ドキュメンタリーを見ると、大伯父のモデルは高畑勲であることが語られてはいるのだが、はて、そう見えただろうか(青サギのモデルは鈴木敏夫ということも明らかになったが、これは大方の予想を裏切らなかったと思われる)。

私にはどうしても大伯父が高畑勲とは思えなかった。

私の個人的な考えは上の「結論」のとおりであるが、以下の記事でより詳しい解説を行なっている(映画公開当時に割とフレッシュな気持ちで書いたものである)。

青サギの画像を背景に「宮崎駿の内面を覗き見る」というタイトル文字を重ねたアイキャッチ
君たちはどう生きるか】考察と感想-現れる3人の宮崎駿と冷たい石-映画『君たちはどう生きるか』の考察記事。​主人公・眞人と父親の関係、青サギの誘い、偽りの母、夏子の存在、大伯父の積み石の謎など、多角的な...

皆さんはどう考えるだろうか。

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インコとペリカンは何のメタファー(比喩)なのか?

結論

インコとペリカンは、宮崎駿監督自身の複雑な内面や、創作を取り巻く現実を象徴する。ワラワラ(才能の芽)を食うペリカンは、若手の才能を「食べてしまう」監督自身の罪の告白である。インコ大王も監督自身を投影しつつ、大群のインコは時にジブリのアニメーター、時に作品を消費するだけの我々観客の姿をも映し出す。創作の苛烈さと、消費への問いかけが込められたメタファーとなっている。

「君たちはどう生きるか」の作品中では大量の鳥が出現する。

特段その存在に疑問を持たずに本編を観ることはできるのだが、あまりにも大量の鳥の存在については「何故?」と思うのは当然のことと思う。

残念ながら、何故インコとペリカンが採用されたかということについては分からないのだが、インコとペリカンがどのような存在として描かれたのかということについては色々考えることはできる。

ポイントは、大伯父のモデルが高畑勲監督であること、それでいて、宮崎駿監督本人が投影されていると思わざるを得ないこと。そしてインコやペリカンが「喰らうもの」といして描かれているということ。

これらを総合的に考えてたどり着いた個人的な「結論」は上にあるとおりである。より詳しい解説は以下の記事で行なっている。

映画『君たちはどう生きるか』より血に染まったペリカンと『彼らは何故、喰らうのか?』の文字─インコ大王とペリカンの象徴を宮崎駿視点で考察する記事のアイキャッチ
君たちはどう生きるか】大量のインコとペリカンは何を意味するのか-大王が象徴する宮崎駿と「俺達」-君たちはどう生きるか」に登場するインコとペリカンの意味を考察。大叔父の塔=ジブリ/宮崎駿の脳内とし、ペリカンを「才能を食らう宮崎駿の罪...

皆さんは、ペリカンやインコはどのような意味を持った存在と考えただろうか。

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8」と「13」の積み木(冷たい石)が示す数字の意味は?

結論

「冷たい石」は宮崎駿監督が苛烈な現場で作り上げてきた作品群を象徴する。大伯父(高畑勲と宮崎駿自身が投影された存在)が積み上げた「8個」の石は、宮崎が高畑と深く関わり「共作」した8作品(『ホルス』『パンダコパンダ』『ハイジ』『三千里』『アン』『ぽろぽろ』『ナウシカ』『ラピュタ』)を表す。一方、眞人(宮崎の分身)に託そうとした「13個」の石は、高畑が深く関与しなかった13作品を指す。眞人がこれを拒絶するのは、宮崎監督自身の過去の制作手法(態度)への自己批判なのである。

物語の終盤、大伯父は眞人に自らの後継者として、世界の均衡を保つ「積み木(冷たい石)」を託そうとする。この積み木が宮崎駿監督の作品群のメタファーであると解釈することは、多くの批評で見られるところである。問題となるのは、なぜ大伯父が積み上げた石が「8個」であり(実は場面によって数が違って見えるのだがここでは「8」とする)、眞人に託そうとした石が「13個」なのか、という数字の謎である。

この数字の謎を解く鍵は、宮崎監督の盟友であり師でもある故・高畑勲監督との関係性にあると考えられる。大伯父には高畑監督と宮崎監督自身の両方が投影されていると仮定すると、「8個」の石は、宮崎が高畑と深く関わり、ある種の「共作」とも言える関係性の中で生み出された初期の8作品を指していると推測できる。具体的には、『太陽の王子 ホルスの大冒険』から『天空の城ラピュタ』までの主要な作品群である。

対して眞人に託されようとした「13個」の石は、それ以降の、高畑監督の直接的な関与が比較的少なくなった13作品に対応する。眞人がこの「13個の悪意に満ちた石」を拒絶する描写は、単に大伯父の後を継がないというだけでなく、宮崎監督自身の過去の作品制作に対する、特に高畑監督との関係性が希薄になった後の制作スタイルや、そこで生み出された作品群(あるいはその制作過程)に対する自己批判的な視線が込められていると解釈できるのである。

この「8」と「13」という数字の具体的な作品対応や解釈についてのより詳細な考察は、以下の記事で行っている。

映画「君たちはどう生きるか」のキャラクター大叔父と「何故『8』と『13』なのか」というタイトルテキストを重ねたアイキャッチ
君たちはどう生きるか】冷たい8個の石と13個の石は何を意味するのか-「8」と「13」の数字に込められた思いを考察-映画「君たちはどう生きるか」に登場する「8個と13個の冷たい石」が持つ意味を詳しく考察。宮崎駿と高畑勲の関係性、大叔父の象徴性、そして作...

皆さんは「8」と「13」という数字についてどのように考えるだろうか。

青サギ(サギ男)のモデルが鈴木敏夫である理由は?

結論

青サギ(サギ男)のモデルが鈴木敏夫プロデューサーであるが、彼のプロデューサーとしての「サギ師」的な辣腕ぶりを考えると「サギ」男であることが非常い面白い洒落になっているように見える。原作漫画の部数を偽って『ナウシカ』の映画化を実現させたり、制作費捻出のために宮崎駿を次作へ誘導したり、未完成部分を演出と強弁したりと、目的達成のためには嘘や強引な手段も厭わない。作中で青サギが眞人(宮崎駿の分身)を怪しく塔へ誘い、時に欺きながらも導き守る姿は、まさに宮崎駿を支え、ジブリを成功に導いてきた鈴木氏の「サギ」的手腕と重なるのである。

青サギ(サギ男)のモデルが鈴木敏夫プロデューサーであることは、制作ドキュメンタリーや関連書籍などで広く知られている事実である。しかし、なぜ数ある鳥の中で「青サギ」、特に「サギ」男というネーミングが選ばれたのか。そこには単なる当てはめ以上の、深い意味とユーモアが込められていると考えられる。

上の「結論」で述べたように、鈴木氏のプロデューサーとしてのキャリアは、時に強引とも言える「サギ師」的な手法によって宮崎駿や高畑勲の傑作を世に送り出し、スタジオジブリを成功へと導いてきた歴史でもある。それは決して悪意からではなく、作品と作家を守り、興行を成功させるための卓越した手腕であった。

作中で青サギが眞人を怪しい言葉で塔へと誘い、目的のためには嘘もつくが、最終的には眞人を導き、危険から守ろうとする存在として描かれている点は、まさに宮崎駿という才能を時に欺き、時に鼓舞しながら並走してきた鈴木氏自身の姿と重なるのである。「サギ」という言葉のダブルミーニングに、長年の盟友である宮崎監督から鈴木氏への、愛憎入り混じった複雑な評価が表れているのかもしれない。

鈴木氏の具体的な「サギ」エピソードや、宮崎監督との関係性については、以下の記事でさらに詳しく解説している。

『君たちはどう生きるか』の青サギ(サギ男)のキャラクターと『彼は何故「サギ」男なのか』というタイトルテキストを重ねたアイキャッチ
君たちはどう生きるか】青サギ(サギ男)のモデルとなった鈴木敏夫のおもしろ「サギ」列伝-スタジオジブリを支えた辣腕の歴史-映画「君たちはどう生きるか」に登場する青サギ=“サギ男”のモデルとされる鈴木敏夫プロデューサーの大胆な決断と数々の“サギ”伝説を振り返る...
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冒頭の「火事場を走る眞人」のシーンが持つ意味は?

結論

冒頭の火事シーンは、主人公・眞人の主観的な「印象」そのものを描いたものである。これはアニメ的リアリティの追求であり、眞人にはあの火事がどう見え、どう「感じ」られたかを映像化している。「かぐや姫の物語」で高畑勲が試みた表現に対する、宮崎駿流のアンサーとも解釈できる。

映画『君たちはどう生きるか』の冒頭、燃え盛る病院へと駆ける眞人の姿は、従来のジブリ作品とは一線を画す、激しく歪んだ描線と色彩で表現されている。これは単なる火災の描写ではなく、母を失うかもしれないという極限状況下で眞人が抱いたであろう混乱、焦燥、恐怖といった主観的な「印象」そのものをアニメーションとして表現しようとする試みである。

物理的なリアリティを超え、キャラクターの内面的な真実、すなわち「彼には世界がどう見えていたか」を描き出すことこそが、宮崎監督の追求するアニメーション独自のリアリティと言えるだろう。上の「結論」で述べたように、これは高畑勲監督が「かぐや姫の物語」で見せた、主観描写への挑戦に対する宮崎監督なりの応答であった可能性も考えられる。

この印象的なオープニングシーンの技法や、それが作品全体に与える影響についてのより詳細な分析は、以下の記事で行っている。

燃える病院を見上げる少年の姿を背景に「あのシーンは何故生まれたのか?」というタイトルテキストを重ねたアイキャッチ
君たちはどう生きるか】火事場を走る眞人シーンと高畑勲が目指したアニメーション表現​『君たちはどう生きるか』の冒頭、火事場を走る眞人のシーンは、印象派的手法を取り入れた映像表現が特徴的である。​本記事では、このシーンに...

まあ、理由なんてどうでも良いことではあるのだけれどね。

ジブリ作品で一番好きなのは?
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シフルはどうなんだい?
「ジブリ作品」と聞かれたら「平成狸合戦ぽんぽこ」と答えることにしている。

この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。

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