「ハウルの動く城」は2004年に公開された宮崎駿監督による劇場用アニメーション作品。キャッチコピーは「ふたりが暮らした。」であった。公開当時はそれほど面白いとは思わなかったのだが、たまに見るたびに好きになる作品となっている。
今回は「ハウルの動く城」のあらすじをまとめると共に、その見どころポイントを紹介しようと思う。ただ、あらすじと言っても全部話してしまうので、ネタバレが嫌な人は途中まで読んで本編を見てください。
「ハウルの動く城」のあらすじ(ネタバレあり)
あらすじの簡単なポイントまとめ
「ハウルの動く城」のあらすじのポイントを短くまとめると以下のようになるだろう:
- 物語の主人公は18歳のソフィー・ハッター。父から受け継いだ帽子屋で働いている。ソフィーはその生活に不満があるわけではないが、別に満ち足りているわけでもない。
- 妹が働くパン屋に向かう途中、兵士にナンパされているところをハウルに救われる。
- その夜、ハウルを付け狙う「荒地の魔女」の逆恨みから魔法をかけられソフィーは老婆の姿になってしまう。
- その緊急事態にソフィーはわずかに動揺するが、すぐさま自宅を後にしてハウルの城に掃除夫として居座るようになる。その際に謎の案山子男「かかしのカブ」と出会う。
- 「ハウルの動く城」には、城の動力となっている火の悪魔「カルシファー」と見習い魔法使いの「マルクル」がいた。
- 優秀な魔法使いであるハウルは、戦争への協力の要請を受けていたがそれを断っていた(魔法学校を卒業する際の契約で本来ハウルにはその陽性を受ける義務がある)。
- ハウルは自分の代わりにソフィーを王宮に派遣することを思いつき、ソフィーもそれに応じる。
- ソフィーはハウルの魔法学校の先生「サリマン」と王宮で対峙する。戦争に関与しようとしないハウルを「母」として擁護する。
- そこに「国王」に化けたハウルが割って入り、2人で王宮を脱出。
- その際サリマンの使いの犬「ヒン」と、サリマンによってその力を奪われた荒れ地の魔女もついてきてしまった。
- 大所帯になった「ハウルの動く城」に戦火が迫る。ハウルはソフィー達を守るため奔走する。この時すでにソフィーとハウルは互いに思い合う相手になっていた。
- なんとか戦火を耐え抜いたソフィーたちは、新たな生活を始める。その時の居城は「動く城」ではなく「飛ぶ城」となっていた。
- ソフィーたちは地上での煩わしい物事に背を向けて、平穏な生活を送る。
「ハウルの動く城」という題名ではあるが、物語の主人公はどう考えてもソフィーである。
ほんの僅かにハウルと接触してしまったがゆえに荒地の魔女の逆恨みにあって老婆にされてしまったが、結局はその事によってソフィーが「ここではないどこか」に新たな一歩を踏み出すきっかけとなっている。
最終的にソフィーは「すでにあった家族」を振り切って「自ら作り上げた家族」と共に暮らす道を選ぶことになる。
結局は「すでにあるもの」と「自ら手に入れたもの」の対比と、すでにあるものとしての「世界」に対する批判精神が形となった物語といえるかもしれない。
ということで、もう少し詳しく「ハウルの動く城」のあらすじを見ていこう。
ハウルとの出会いと老婆化
物語の主人公は18歳の女性ソフィー・ハッター。三姉妹の長女である彼女は、父の残した帽子屋で働いていた。
彼女は日々の生活に不満を抱いていたわけではないが、何やら満たされない思いにも駆られていた。
そんなある日、妹が働くパン屋に向かう途中、ソフィーは兵士にナンパされてしまう。そこにやたらと派手な服を着て、やたらと顔の良い男が現れ彼女の苦境を救ってくれた。彼も兵士に負けず劣らずナンパな男であったが、彼女にとってそんなことはどうでも良いことだった。
彼は街の女が浮き足立っていた原因であるハウルだった。謎の動く城で生活を送る彼に囚われた女性は、どうやら「心臓」を奪われるらしい。
彼女にはそんな悲劇は訪れなかったが、その夜、ある意味それよりも恐ろしいことが起こる。その夜帽子屋に帰ったソフィーの元に不可思議な女が現れた。その女はあっという間にソフィーに魔法をかけ、彼女を老婆に変えてしまう。彼女は「荒地の魔女」と呼ばれる恐ろしい魔女だった。かねてよりハウルを付け狙っていた荒地の魔女は、ハウルと空のランデヴーを経験したソフィーのことがどうにも気に食わなかったらしい。
老婆の姿になってしまった事実に戸惑ったものの、ソフィーはこれを好機にと店を離れ「ここではない何処か」へと向かった。彼女の行動は満足しているとは言い難い現状からの逃避行だったかもしれないし、もしかしたらハウルとの再会を期待したものかもしれない。いずれにしても彼女の新たな旅が始まった。
押しかけ女房
旅の途中、ソフィーは不可思議な案山子と出会った。何やらソフィーを気に入ったらしい案山子は、老体のソフィーに杖をプレゼントした。そんな案山子にソフィーは「カブ」という名前を付けていた。
杖のついでに「今夜泊まる部屋でも連れてきて」と冗談めかして頼んだソフィーだったが、しばらくソフィーの元を離れた案山子は、見事に「ハウルの動く城」を連れてきてくれた。
それが偶然だったのか、案山子の仕業だったのかはわからないが、ソフィー「今夜泊まる部屋」を見つけたようだ。
うまく城に入り込んだソフィーをハウルは拒絶しなかった。それどころか、火の悪魔カルシファー、弟子のマルクルと共に城の住人となってしまった。「来る者拒まず」はハウルの方針だったのだろうか?
何れにせようまいこと城に入り込んだソフィーは、「押しかけ女房」さながら頼まれてもいない城の大掃除を始めた。ほぼゴミ屋敷だったハウルの城はみるみるうちに片付き、「家」としての体裁を取り戻した。
そんな折、ハウルがかねてから国王の招聘を受けていたことが分かる。
魔法学校に入学したときの契約で、ハウルにはその要請を受ける義務があったが、どうしても招聘に応えるのが嫌なようだった。ただその様子は「戦争に協力したくない」という強い意志というよりは、子供が駄々をこねているようでもあった。どうも魔法学校の教師であったサリマン先生に会いたくないようだ。
そんなハウルは、自分の代わりにソフィーを母としてサリマンの元に送り込もうとする。自分の代わりに「息子は使い物になりません」とサリマンを説得してもらおうと考えているらしい。弱々しいハウルの姿を見たソフィーは、惚れた弱みもあってか、そんな無茶な要求を受け入れるのだった。
ソフィーが王宮にたどり着くと、そこには何故か荒地の魔女がいた。彼女も国王から招聘されたようだった。
王宮内で荒地の魔女と別れたソフィーは、ハウルがどうしても会いたくなかったサリマンとようやくの対面を果たす。そこでサリマンはハウルが優れた魔法使いであること、悪魔に魂を奪われ自分のためにだけに魔法を使うようになったこと、そしてこのままでは荒地の魔女のようになってしまうということを淡々と語った。
そこに変わり果てた姿の荒地の魔女が運び込まれた。
それまで持っていた怪しげな様子はなくなり、ただの老婆と成り果てており、魔法の力も無いらしい。荒地の魔女が王宮に呼ばれた理由はこれだった。
そして、ハウルが王宮に来ないのなら彼も同じ運命をたどることになると、サリマンは脅しをかけてきた。
そんな挑発的で傲慢なサリマンの態度に反発を覚えたソフィーは、サリマンを相手に「ハウルは決してこない、悪魔とのこともなんとかしてみせる」と見栄を切ってみせた。
そこへ突然国王が現れる。「私は魔法の力で戦争に勝とうとは思わない」と冷静にソフィーに語りかける国王だったが、次の瞬間、全く同じ顔をした人物が現れた。その人物は、軽薄な様子でサリマンに話しかけると、目の前にいる同じ顔の男を「影武者」として受け入れ、そそくさとその場を去ってしまった。
はじめに現れた国王は姿を変えたハウルだった。
サリマンはハウルを確保すべく魔法を発動する。強力な魔法を前に我を失いそうになるハウルだったが、寸でのところで脱出に成功する。ただ、荒地の魔女とサリマンの使い犬も、おまけとしてついてきてしまった。
あっという間に「ハウルの動く城」は大所帯となった。
一段落ついた後、増えた家族の部屋を確保するためにハウルは城内部の模様替えを行った。ソフィーの部屋は懐かしい帽子屋の小部屋だった。
サリマンとの一件もあってか、ソフィーに対して特別な感情を抱いていたハウルは、彼女を「秘密の庭」に招待する。その庭は野花が広がるに高原の美しい草原であった。
そんな美しい庭の近くを空中戦艦が通過する。戦火の広がりは想像を超えているようだった。
広がる戦火と大空へのエスケープ
そんなある夜、ソフィーの街が爆撃を受ける。帽子屋付近にも爆弾が落ちたが、ハウルの尽力で大きな被害からは逃れる事ができた。
身に降りかかる困難から逃げ続けて来たハウルだったが、自らの「家族」を守るため、その身を呈する覚悟を決めるのだった。
文字通り命がけで戦うハウルの姿を見たソフィーは、カルシファーもろとも城をでる決断をする。その場所を離れればハウルが戦わずに済むと考えたのだ。
カルシファーと共に城をでると、力を失った城はみるみるうちに壊れていった。
その場をやり過ごしたソフィー達だったが、今度はハウルを迎えに行かなくてはならない。再びカルシファーの力を借りて城を動かそうとするが、命令の主体がソフィーであるため新たな契約が必要だった。ソフィーは髪の毛と引き換えに契約を交わし、再び城を動かすことに成功する。しかし、髪の毛だけでは「再建」とまでは行かず、少々情けない城となってしまった。
そんな折、荒地の魔女はカルシファーの中にハウルの心臓を見出す。恋い焦がれ続けたハウルの心臓を発見した荒れ地の魔女は、カルシファーを暖炉から引き離して自らのものにしようと画策する。
城を動かしてハウルの元へ向かいたいソフィーは荒地の魔女からカルシファーを取り戻そうとするが、そのいざこざの中で荒地の魔女がカルシファーの炎に包まれる。
とっさにソフィーをバケツの水を荒地の魔女にかけたが、そのせいでカルシファーも弱ってしまい城の一部が倒壊。それに巻き込まれたソフィーは崖の下に落ちてしまった。
城の瓦礫に守られたソフィーは大怪我もなくすんだが、カルシファーに水をかけてしまったことでハウルが死んでしまうかもしれないと自責の念に駆られていた。
そんな時、ハウルからもらった指輪から差す光が城の扉にソフィーを導いた。
暗闇に包まれる扉を抜けると、そこはハウルの「秘密の庭」であった。しかし、そこはソフィーが生きる現代ではなく、まだハウルが幼い過去の世界であった。そして、ハウルがカルシファーと契約を交わし心臓を捧げた夜でもあった。
そんな2人の元に駆け寄るソフィーだったが、再び現代に呼び戻されてしまう。ソフィーは「未来で待ってる!」とだけ告げて、過去の2人の元をさった。
元の時代に戻ると、そこでは傷ついたハウルがソフィーの帰りを待っていてくれた。口づけを交わした2人は、カルシファーの元に向かう。
一方その頃カルシファーは、水をかけられた影響で瀕死の状態であったがギリギリでその生命を永らえていた。そこにソフィーとハウルがたどり着く。
カルシファーと同様瀕死の状態だったハウルはその場に倒れてしまう。そんなハウルにソフィーはカルシファーと共にあった心臓をもとに戻した。
契約から開放されたカルシファーは何処かへともなく飛び去ってしまったが、ハウルは意識を取り戻した。
しかし、カルシファーの最後の力でかろうじて動いていた城はその動きを止め、ソフィー達を載せたまま山肌を滑落していくのだった。
そんなソフィー達を案山子のカブが身を挺して守ってくれた。その御礼にソフィーがカブにキスをすると、カブは姿を取り戻し人間に戻った。彼はもともと隣国の王子だったが、呪いにかけられて案山子にされていたのだった。
「カブ」はソフィーの存在に後ろ髪を惹かれつつも、戦争を終結させるべく本国戻った。その様子を王宮から確認したサリマンも、戦争の集結を決断する。「カブ」を案山子に変えたのはどうやらサリマンのようだ。
結局、自由の身になったカルシファーもソフィー達と暮らすことを決断し、一時の平安が訪れる・・・・
数年後、再び戦火が世界を覆ったが、ソフィーたちはそんな地上のいざこざなど気にもとめず、大空を自由に飛び回るのだった。
以上が個人的にまとめた「ハウルの動く城」のあらすじである。続いては考察ポイントについて。
「ハウルの動く城」の考察ポイント
宮崎監督がようやく描いてくれた「タイムリープ」
「ハウルの動く城」で見逃しがちな要素が、きちんとタイムリープものになっているということだろう。
もちろんSFではなくファンタジーとしてのタイムリープにはなっているが、過去に戻り「未来で待ってる!」と声をかけたソフィーに「探したよ」と現れるハウルの初登場は、十分ロマンチックなものだろう。
また、ソフィーとカルシファーが何故かうまくやっていけた理由も過去に2人があってるからだったということになっているのかもしれない。
何れにせよ、ある程度の「タイムリープもの」としての要素があるのは間違いないので、そういった視点に立つと新たな発見があるかもしれない。
捕獲される男の悲哀
続いての見どころは「ソフィーの行動原理」であろう。物語の序盤から何やら「不満」を抱えながら生活している様子が描かれるソフィーだが、物語のラスト、空を飛ぶ城の中にいた彼女は極めて満たされているように見えた。
結局の所「ハウルの動く城」はソフィーがつまらない現状を捨てて新たな家族とともに人生をやり直す話だったようにも思われる。その辺のことを以下の記事でもう少し詳しく書いている:
「老婆」の謎と「紅の豚」との共通点
「ハウルの動く城」最大の特徴は「主人公が老婆になる」ということになるだろう。しかし我々は、似たような話をすでに知っている。「紅の豚」である。
「紅の豚」の主人公ポルコ・ロッソは、「顔が豚になる」というソフィー以上の緊急事態に陥っているが、彼はどうやらそのことを全く気にしていない。そして実はソフィーも自分が老婆になったことを対して気に留めていないことに気がつく。その状況に焦っているのはむしろ映画を見ている我々である。
このような不思議な共通点については以下の記事にまとめている:
暇なときにでも目を通して見てください。
この記事で使用した画像は「スタジオジブリ作品静止画」の画像です。
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