「シン・ウルトラマン」は2022年に公開された、脚本庵野秀明、監督樋口真嗣による映画作品である。
残念ながら公開初日に見に行くことは出来なかったのだが、なんとか一週間弱情報統制を徹底し、無垢なままで見に行くことが出来たのでその感想を書いてこうと思う。
特に今回は「シン・ウルトラマン」の大きな謎と思われる「ウルトラマンは何故人類を救うのか?」と「何故カラータイマーがないのか?」に焦点を絞って考えていこうと思う。
まずは「シン・ウルトラマン」のあらすじを振り返ろう。
*以下の文章には極めて膨大なネタバレがありますので、まだ見ていない人は読まないようにしてください。
「シン・ウルトラマン」のあらすじ
日本に未確認生物「カイジュウ」が出現し始める。
日本国はその戦力としての自衛隊を駆使し、運良くその存在を駆逐した。
その過程で日本は「かとくたい」という「かいじゅう」専従班を設置しその対応にあたらせた。
彼らは見事な戦果を上げていたが、そんな折、あるカイジュウの対応中に宇宙から謎の存在が襲来する。なぜかその存在はカイジュウをその能力によって駆逐し、空に帰っていった。
日本国はその存在を「ウルトラマン」と名付けた。
「科特隊」は「かいじゅう」と共に「ウルトラマン」の調査も始めるが、その調査は遅々として進まなかった。
日本国は「カイジュウ」と「うるとらまん」の襲来以降、様々な驚異にさらされてきたが、その事実を演出していたのはウルトラマンよりも先に地球に来訪していた「メフィラス」であった。
メフィラスは地球人を「戦力にしうる優れた存在」と見て、その存在を支配下に置こうとしていた。しかし、それは別の表現をするならば「地球人を家畜化する」ということであった。
「ある理由」で地球人に「興味」をもってしまったウルトラマンは「観察者」「裁定者」としての本来の目的を捨てて、メフィラスと対決する。
しかしその戦闘中、メフィラスは状況が自らが思っていたよりも深刻であることに気がつく。彼はウルトラマンとの戦いを中断し、地球から手を引くことを告げる。
宇宙は地球人類の駆逐を決定したのである。それを告げるために現れたのが「ウルトラマン」の同朋「ゾーフィー」であった。
ゾーフィーは地球人類の駆逐という「光の星」の決定を実現すべく最終兵器「ゼットン」を放つ。
ゼットンはその最終形態に至るために時間を擁するが、地球人にはその対応策を見出すことが出来なかった。
すでに地球人に肩入れしている「ウルトラマン」も、ゼットンを駆逐することは出来なかった。しかし、彼には一つの希望があった。それは地球人の知恵であり、彼は「かとくたい」のメンバーである「~」に重要なデータを渡す。
地球人類はその叡智を結集し、ある作戦にたどり着くが、それには「ウルトラマンの命」を必要とした。
それでもなおウルトラマンはその作戦に同意し、自らの命を賭けてゼットンを駆逐するのだった。
以上が「シン・ウルトラマン」のあらすじである。極めてネタバレを含むが、これを読んでもギリギリ楽しめるラインではないだろうか。
続いては、「シン・ウルトラマン」の1つ目の謎「何故彼は人類を救うのか」あるいはより強く「彼は何故人類のために命をかけたのか」について。
シン・ウルトマンは何故人類を救うのか?
其の壱:神永新二と同じ行動をとる。
「シン・ウルトラマン」あるいは「ウルトラマン」を語る上でもっとも重要な事実の一つは、ウルトラマンはとても長寿な上に強靭な肉体を持っているという事実だろう。
そういう存在にとって「自分以外の存在を命をかけて守る」という行動はあまりにも新鮮だった。それがウルトラマンが神永新二に興味を持った理由であり、彼と「一体化」することによって彼を延命した理由でもあった。
そして、本編中何度も語られたように、ウルトラマンの根本的な欲求は「人を知ること」だった。
ウルトラマンの最終的な行動は極めてヒーローっぽくって、実際私は胸を打たれたが、あの行動は「神永新二の模倣」であったと考えるのが自然だろう。
つまり、自分が一番最初に興味を持った存在と同じ行動を取ることによって「人類」というものを知ろうとしたということである。
そして、この様な見方をすると物語のヒーローがウルトラマンではなく実は神永新二であるということも見えてくる。
神永新二が子供をその命をかけて守らなければ、ウルトラマンはゾーフィーと同様に、客観的な「裁定者」として地球に存在し、結果としては我々にとっての「ヒーロー」とはならなかっただろう。
「ウルトマン」同様に、最終的にゼットンを駆逐する方策を人類が見出したということも「最終的に人類が状況を解決する物語」としての「ウルトラマン」という物語の見事な再現だったのではないだろうか。
其の弐:ウルトラマンの恋-何故彼は匂いを嗅いだのか?-
「神永新二と同じ行動をとる事によって人類を知る」ということで、基本的には「ウルトラマンが人類を救う」ことの理由は説明できるとは思うのだが、もう一つだけ理由づけが可能である。
それは、神永新二が浅見弘子の匂いを嗅ぐシーンに根拠を見出すことが出来るだろう。
物語の終盤、メフィラス星人が日本政府に譲渡しようとしたβ-システムの本体を奪い去るために、神永が浅見の匂いを記憶するシーンが描かれる。
そのシーンでは「数値化できない唯一の情報」としての「匂い」を嗅ぐということが描かれるのだが・・・多くの人が違和感を憶えただろう。
どう考えても「匂い」は数値化出来るのである。我々の鼻が受け取ってるのは神秘のエネルギーではなくて化学物質(あるいは自然物質)なのだから、「匂い」以外を数値化出来るのなら「匂い」だって数値化できてしかるべきである。
でも、「匂い」は数値化出来ない情報であると明言されていた。
つまり・・・あのシーンで明言されていた「匂い」とは「恋心」のことであろう。
少々突飛に思われると思うが、そもそも「匂いを嗅ぐ」といシーンがセクシャルなものであり、本来惚れてもいない相手の匂いなど嗅ぎたくもない。
しかし、「シン・ウルトラマン」の彼は、匂いを嗅いだばかりではなく、謎の空間の中で「浅見の匂い」を追い求めて我々が想像も出来ないような旅を続けたのである(実感としてどれほどの時間をかけたことだろう)。
これを我が国で「変態の恋」というのではないだろうか?
もちろん、「恋」という概念を知らないウルトラマンは自分がしていることがどの様な感情に基づくか分かってはいない。
しかし、物語を「客観的に」みている我々としては、彼が命をかけて地球を守ろうとした理由に「ウルトマン自身が気づいていない浅見への恋心」があったと見ることが出来るだろう。
少なくともこのように考えると、彼が「命をかけて地球を守ろうとした」という事実に納得がいくのではないだろうか。
シン・ウルトラマンは何故カラータイマーがないのか?
ウルトラマン裸問題
「ウルトラマン」を語る上で避けて通れない問題が「ウルトラマンは裸なのか服を着ているのか問題」である。
この問題には様々な解答が存在するが、「シン・ウルトラマン」の解答は…「裸」ということになるだろう。
例えば、体力を失ったときに体の色が代わるという演出がそれを表現しているのではないだろうか。
更に、初登場でシルバーだったウルトラマンが神永と同化したあとに赤くなるのは「人間の血」が混ざったことを表現しているものとおもわれる。その血の色が直に見えているということは、ウルトラマンの肌が見えていることになるのだから、ウルトラマンは裸ということになる。
となると、カラータイマーなどという無機質なものを胸に装着しているわけはないだろう。だって、取り付けるときに激痛が走るからね。
ゾーフィーのレリーフと色
また、カラータイマー以外にも今回の「シン・ウルトラマン」では大事なものが存在していなかった。ゾーフィーの胸にあるはずの半球状のレリーフである。
これも「ウルトラマンは裸」という事実に基づくと説明がつけられるだろう。
つまり、ゾーフィーも裸だとするとあのレリーフの意味がわからないのである。直接体に何かを埋め込んでいるのか、生まれながらの形質なのか・・・。
何れにせよ、ない方が自然であることは間違いないことになる。
少々話はズレるが、ゾーフィーといえばその色も衝撃的だった。まさかまさかの青である。
あれは恐らく、ゾーフィーの冷酷さを表す色だったのだろう。最終的にはウルトラマンの判断に理解を示したが、彼はゼットンを用いた人類滅亡作戦の実行に全く後ろめたさを持っていなかった。その冷酷さがあの「青」として描かれたのだと思われる。
おまけ:「逆襲のシャア」と「シン・ウルトマン」
「シン・ウルトラマン」におけるウルトラマン同様に、「なんでそんなにしてまで地球を守ろうとしたの」問題を巻き起こした作品があった。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」である。
あの作品中、「機動戦士ガンダム」の主人公アムロは、懸命に地球に隕石を落とすネオ・ジオンの作戦を阻止しようとしている。もちろん「軍属」になってしまったアムロにとっては「仕事」なのだが、それだけではラストシーンの懸命さは説明しづらい。
しかし、「逆襲のシャア」の小説版「ベルトーチカ・チルドレン」では、地球にアムロの子供がいることが描かれている(アムロとベルトーチカの子供)。
つまり、アムロが隕石落としをあれほどまでに止めようとする行動の裏には、地球に自分の子供達がいるとう事実があるということになる。
「逆襲のシャア」と「ベルトーチカ・チルドレン」の関係性を、原作の「ウルトラマン」と「シン・ウルトラマン」に適用すれば「浅見への恋心」の必然性は高まるのではないだろうか。
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