「未来のミライ」のあらすじ(ネタバレあり)-結末までのストーリーを解説・考察-

「未来のミライ」は2018年7月20日に公開された細田守による劇場用アニメーション作品である。本作は甘えん坊の4歳の男の子・くんちゃんと、未来からやってきた妹・ミライちゃんとの不思議な冒険を通して、家族の愛と命のつながりを描いたファンタジー作品となっている。

本記事では、物語の詳細なあらすじをまとめつつ、「不可思議な形の家」「物語の評価」「コメディシーン」といったポイントについての解説・考察を行う。先ずは、この映画の基本情報を振り返っていこう。

「未来のミライ」の作品基本情報

作品概要

主要な登場人物と声優（キャスト）一覧

人物相関図

「未来のミライ」のあらすじ（ネタバレなし）

物語の主人公は、とある首都圏(神奈川県横浜市磯子区)に住む4歳の男の子、くんちゃん（太田訓）。建築家の父が設計した個性的な家に、両親と愛犬のゆっこと暮らしていた。ある雪の降る日、入院していた母が退院し、家に新しい家族がやってくる。それは、生まれたばかりの妹だった。

初めて見る赤ん坊に興味津々のくんちゃんは、母から「何かあったら守ってあげてね」と言われ、「うん」と素直に応じる。しかし、その日から生活は一変し、両親の注目はすべて妹に注がれ、くんちゃんはないがしろにされていると感じ始める。次第に不満を募らせた彼は、両親の目を盗んで赤ん坊にちょっかいを出し、母に厳しく叱られてしまう。

「好きくない！」と泣き叫び、ひとり中庭へ飛び出したくんちゃん。すると突然、庭の景色が歪み、見たこともない古ぼけたお城のような場所へと変わる。そこで彼が出会ったのは、「自分はかつてこの家の王子だった」と語る謎の男だった。

「未来のミライ」の結末までの詳細あらすじ(ネタバレあり)

（※警告：ここから先は、映画の結末を含む重大なネタバレが記載されているため、未視聴の方はご注意ください。）

起：妹への嫉妬と「元王子」との邂逅

物語の主人公はくんちゃん（太田訓、おおたくん、4歳）。雪が降り始めたある日、出産のためにしばらく入院していた母親が家に帰ってくるところから物語は始まる。

これまでは、両親2人と犬一匹で暮らしていたが、そこに女の子の赤ん坊が加わった。そんな新しい家族を前に、「何かあったら守ってあげてね」という母にくんちゃんは「うん」と応える。しかし、すべてが赤ん坊を中心に回り始め、くんちゃんはその状況に不満を覚えていく。

そんなある日、両親が見ていない隙にくんちゃんが赤ん坊に「ちょっかい」を出していると、寝ていた赤ん坊が泣き出してしまう。駆けつけた母親に一方的に叱られてしまったくんちゃんも泣き出し、事態は混乱を極める。そんな中で、くんちゃんは一人中庭に飛び出してしまうのだが、そこに生えている一本の木の方から「ぶざまですなー！」という男の声が聞こえてくる。声の聞こえる方を見ると、不思議なことに周りは見たことのない古ぼけたお城の中のようになり、謎の男が現れる。その男はくんちゃんの気持ちを「嫉妬である」と説明し、自分は「くんちゃんが来る前の王子である」と語った。

それに続けて、くんちゃんが来る前までは両親の愛情を一身に受けていたこと、そしてくんちゃんが生まれたことによって自らが隅に追いやられてしまったことをとうとうと演説し始める。その謎の男の正体は、一緒に暮らしていた犬のゆっこであった。その不思議な体験のあと、くんちゃんも落ち着きを取り戻し、家族全員で平穏な夕食をとる。そしてその夜のうちに、赤ん坊の名前は「未来（ミライ）」と決まるのだった。

承：未来から来たミライちゃんとのお雛様作戦

ミライちゃんが生まれて3ヶ月。桃の節句を迎えていた。そんな時に、母が仕事の出張で2晩ほど家を空けることになる。父親がワンオペで家事と育児にあたっていたが、それ以外に仕事（フリーランスの建築士）もあり、くんちゃんはひとり寂しい思いにかられる。

そんな時に、中庭に出たくんちゃんは、また不思議な世界に足を踏み込む。そこには屋内庭園のような場所が広がっていたのだが、驚くべきことに、中学生になったミライちゃんの姿があった。ミライちゃんは3月3日を過ぎても飾られ続けている雛人形を片付けてほしいと頼み込んだ。片付けるのが1日遅れると、結婚が1年延びるという話を両親と祖父母がしているのを聞いていたミライちゃんは、そのことをひどく心配していた。

くんちゃんは父親に片付けるようにお願いしようとするのだが、仕事に集中して聞いてくれない。意を決して、成長したミライちゃんは自らその雛人形を片付けることを試みるが、父親に見つかりそうになり、急いで中庭に戻る。

そして再度、人間化したゆっこも伴い、3人でお雛様をしまう作戦を決行する。僅かなトラブルがあったものの雛人形をしまうことに成功し、くんちゃんとミライちゃんの間には深い絆が生まれる……はずだったが、そのような共同作業を終えても、くんちゃんはまだミライちゃんの存在に不満があるようだった。

転：母の過去と曾祖父との冒険

久しぶりの母の休日、父が仕事で外に出ている中で、くんちゃんがおもちゃの片付けをしないことで母親に強く言われてしまう。不満を募らせたくんちゃんは、中庭で再び未来のミライちゃんに出会う。ミライちゃんはせっかくの休日にお母さんを困らせてはいけないとくんちゃんに語りかけるのだが、「ミライちゃんやゆっこかわいいのに、くんちゃんはかわいくない」とくんちゃんはつぶやき泣き出してしまう。ミライちゃんが来たことで募っていた不満がそこで溢れ出ていたのだった。ミライちゃんは「そんなことはない」とくんちゃんをなだめようとするのだが、くんちゃんは泣きながら一人走り出していってしまう。

気がつくとくんちゃんは、雨の降る古い街の中にいた。そしてそこには、子供の頃の母親の姿があった。母の家に迎えられたくんちゃんだったが、親がいないことをいいことに、母と一緒に家の中を荒らし放題の状態にしてしまう。運悪くそこに、お母さん（くんちゃんの祖母）が帰って来るが、子供の頃の母はくんちゃんを勝手口から逃がすと、ひとりこっぴどく叱られるのだった。母を叱る祖母の怒声と泣きながら謝る母の声に耳を塞ぐくんちゃんは、その場から離れ雨の中を走る。そんなくんちゃんはいつしか、自宅の布団の上で寝ているのだった。

夏になり、自転車を買ってもらったくんちゃんは、父親とミライちゃんとともに公園（根岸森林公園がモデル）に遊びに行くのだが、そこで補助輪なしの自転車に乗る子どもたちを見る。自分も補助輪なしで自転車に乗りたいと思い立ったくんちゃんは、父親とともに練習を始めるのだがなかなかうまく行かない。そんな時に、ミライちゃんが泣き出してしまって、自転車に乗る練習がストップしてしまう。その状況に強い不満をもったくんちゃんは、再び中庭で過去の世界に導かれる。

そこには青年期の曽祖父の姿があった。少々とっつきにくそうな雰囲気をもっており、戦争で負った傷によって足を引きずって歩いている青年だったが、その実とても気の良い人物で、くんちゃんに馬やバイクに乗る経験をさせてくれた。元の世界に戻ったくんちゃんは再び公園で自転車に乗る練習をしたいと父親に頼み込む。今度は見守ってもらうだけで、自力で自転車に乗るための練習をする。その中で、青年に馬に乗せてもらった時にかけられた「下は見ねえで。何があっても遠くだけを見る」という言葉を胸に、幾度か転びながらも自転車に乗ることに成功するのだった。

結：東京駅での迷子とアイデンティティの確立

その日は家族でキャンプに行くことになっていたのだが、お気に入りの黄色いズボンが洗濯中であったことからくんちゃんはぐずりだしてしまう。バスタブやクローゼットに隠れて不満を表現していたくんちゃんだったが、気がつくと両親もミライちゃんもいなくなっていた（実際には車に荷物を積んでいただけ）。自分がおいていかれたと感じたくんちゃんは、リュックを背負って家出を試みるのだが、そこでまた、不思議な世界へと導かれる。

くんちゃんは単線のホーム（根岸線磯子駅、外観のモデルは富山地方鉄道本線の越中中村駅）にたどり着くが、その待合室から「よくないな～」という声が聞こえる。声の主は高校生の少年であり、未来のくんちゃんの姿だった。少年は、せっかく休みの思い出を作ろうという時に、ズボンのことぐらいで駄々をこねたくんちゃんの態度を非難する。一方のくんちゃんもそれに抵抗するが、そんなことをしているうちにホームに電車が到着する。高校生はくんちゃんを止めるが、そもそも家出をする気でいたくんちゃんはその電車に乗ってしまう。

電車は「東京駅（実際の東京駅とは異なる空間）」に到着する。くんちゃんは大好きな新幹線に乗ろうとするも、改札を突破できず失敗。そうこうしているうちに広大な「東京駅」で迷子になってしまう。迷子センターが見当たらなかったくんちゃんは、仕方がなく遺失物係に迷子になったことを告げるが「失くしたものは自分自身というわけですね」と何故か納得し、呼び出しに必要な情報を得るための質問を始める。くんちゃんは自分の名前は答えられたものの、両親の名前を答えられなかった。その他の家族として、ゆっこの名前を出すもののペットの名前ではダメだという。

そして、このまま迎えが来なければ特別な新幹線に乗せられて「一人ぼっちの国」に連れて行かれると告げられる。最後のチャンスとして「自分自身を証明する必要がある」と問われたくんちゃんは、「お母さんのこども」「お父さんのこども」「ゆっこにおやつをあげる係」と答えるが、その答えでは状況は変わらなかった。しかし、最後の最後「ミライちゃんのおにいちゃん」と答えると、館内放送が始まりミライちゃんが呼び出される。

駆けつけたミライちゃん（中学生）と共に時空の旅をしながら元の世界に戻るくんちゃんは、その途中で様々な家族の記憶を目にする。それは連綿と積み重ねられてきた家族の歴史であり、くんちゃんは自らがその一部であることを理解する。元の世界に戻ったくんちゃんは青いズボンをはき、ミライちゃんと仲良くキャンプに向かうのだった。

「未来のミライ」の解説・考察

不可思議な形の家の謎-デザインの意図についての発言のまとめ-

くんちゃんの家は、段差だらけで中庭を中心に据えた「一見すると住みにくそうな家」として描かれているが、これは明確な意図を持ってデザインされたものであり、本物の建築家である谷尻誠がデザイン(設計している)。ここでは、くんちゃんの家に関する細田監督と谷尻氏のインタビュー記事での発言をまとめて、あの不可思議な形の意味を振り返っていこうと思う。

まず最初に、細田監督の発言を引用するが、以下の発言から、あの家の構造には4歳児の視点では「家の中が世界のすべて」になるという本作の核を、建築の形そのもので支えるための必然があったということが分かる。

「それと4歳児そのものがおもしろい存在だなと感じるのは、『世界』というものすべてが『家の中』という最後の年齢だというのがあります。」

出典：JDN「『未来のミライ』細田守監督が映画と展示を通して伝えたいこと」（2018-08-10）

そして、その「家＝世界」を映画として面白い運動へ変換するために、建築家の谷尻誠は、細田作品に通底する“坂道の躍動感”を室内空間へ持ち込む発想を語っている。つまり、家の段差は“生活の都合”だけでなく、くんちゃんの冒険（移動の快感）を生むための装置でもある(以下が実際の谷尻氏の発言)。

「最初に脚本を読ませていただいたんですが、全然イメージできなかった（笑）。それで細田作品を改めて全部見直したんです。気づいたのは、『時をかける少女』も坂道、『バケモノの子』も渋谷という街を舞台に坂と階段を下りて行くような風景があるし、『サマーウォーズ』もお屋敷に行くまでに大きな坂道があること。細田さんの映画の中では、坂道を使ってスピード感とか躍動感を作り出すシーンが共通してあるんじゃないかなと。でも今回の映画は家の中が題材なので坂道が作れない。ならば傾斜地に沿うような階段状の家がいいんじゃないか、それが細田作品の坂道に値する役割を果たしてくれるものになるんじゃないかと」

出典：GOETHE「建築家･谷尻誠が手掛けた“家”というもうひとつの主役」（2018-08-04）

さらに細田監督は、この家の段差が「子どもと大人で世界の見え方が変わる」ことを、寸法レベルで可視化している点を明言している。段差がくんちゃんの背丈に近いために、ある階にいる時にくんちゃんの目線では上の階が見えず、階段を登ることが未知の世界への移動となっている。

一方で、大人にとっては大きな段差ではないが故に単なる階の移動に過ぎず、結果として子供の見ている世界と大人の見ている世界の差分が空間的に表現されている。映画本編で描かれる、親子のミスコミュニケーションの空間的表現とも言えるかも知れない。この件に関する細田監督の実際の発言は以下のようになっている。

「部屋と部屋の段差はそれぞれ100cmなんですけど、それがちょうど4歳児の背丈と同じくらいなんです。つまり、主人公のくんちゃんが見ている世界と大人が見ている世界は、視点によって全然違うのもこの映画ならではというところかな。」

出典：JDN「『未来のミライ』細田守監督が映画と展示を通して伝えたいこと」（2018-08-10）

加えて谷尻氏は、この家の“住みにくさ”を欠点ではなく、時間の中で家族の誇りと愛着へ変わっていく要素として位置づけている。段差だらけの家は、くんちゃんの冒険を生むだけでなく、家族の生活が積み重なっていく器としても機能するのである。

「住みづらさは住んでいくうちに、愛着へと変わるんです。～中略～ むしろ不便さというのは、この家をつくる上では重要なキーワードでした」

出典：CINEmadori「『未来のミライ』住みづらい斜面に建つ建築家ならではの一軒家」（2018-07-13）

この発言については、人情的には確かに理解できるのだが、「家」は簡単には変更できないものであること、そして、日常生活そのものであるが故に小さな使いづらさの積み重ねが大きな不満へとつながりうることを考えると、実際にあの家に住みたいと思うかと言われれば、個人的には「No」と言わざるを得ない。「どこかで見たことのある、なんでもない間取り」にこそむしろ愛着を持てそうな気もする。

もちろん、そういうことにも谷尻氏は自覚的であり、同じインタビューで以下のようにも答えている：

「建築家としての思いは込められているんですけど、間違いなくもっともうるさいクライアントと言える奥さんが隣にいるわけです（笑）。～中略～ 僕だともっと攻めた家をつくってしまいがちなので、もう少し優しい生活を意識しました」

出典：CINEmadori「『未来のミライ』住みづらい斜面に建つ建築家ならではの一軒家」（2018-07-13）

映画の設定であの家は建築家であるおとうさんが設計したことになっている。本編中では何とも情けない姿を見せたおとうさんだが、映画の最後におかあさんが「最近優しくなったね。昔はそんなじゃなかった。いつも仕事でピリピリしてた。」と語っている。

おそらくあの家は、まだおとうさんがまだ「ギラついていたころ」に、建築家としての夢と願いを爆発させつつも、奥さんの要望を「しぶしぶ」聞くことによって設計されたものなのだろう。

先述した通り、個人的にはあの家に住みたいとは思わないのだが、本編中ではあまりいいところがなかったおとうさんの「ギラつき」が垣間見える点は面白いと思う。

このように、見た人の多くがその「異形さ」にある種の違和感を覚えたであろうあの家のデザインには、作劇上の狙い、建築家としての思いが込められていたのである。

あえて描かれた「裕福な家庭」という舞台装置

前節において、くんちゃんの「家」の構造そのものに関する謎はある程度解けたと思うのだが、「家庭」についての設定上のある種の「違和感」が残っていると思う。つまり、物語の舞台となるくんちゃんの家庭は、あからさまに「裕福」な家庭として描かれている。

建築家の父が設計した個性的な一軒家に住み(建売ですらない)、くんちゃんは尋常ではない量のプラレールの線路やおもちゃを所有している。両親は共働き（片方はフリーランス）であり、首都圏(神奈川県横浜市磯子区)で十分すぎる生活水準を維持できるだけの経済力を持っている。

一応、彼らがあの場所で暮らせていることには設定が存在しており、細田監督は以下のように語っている：

「傾斜地だからそこまで土地の価格は高くないし、造成していないからその分の値段も抑えられるし、しかも設計がおとうさん本人ですからね。さらにコストダウンできるんじゃないかと。そのうえで延床面積が148㎡あるんですけど、そのぐらい確保できたというのはある種、苦労の表れだと思いますね。」

出典：JDN「『未来のミライ』細田守監督が映画と展示を通して伝えたいこと」（2018-08-10）

設定上は彼らなりの工夫と苦労があったようだが、それでもやはり裕福であることに変わりはないだろう。実際、本編中で描かれる子育ての苦労に金銭的な問題は一切出てきておらず、両親が苦労しているのは純粋に子どもとの関係である。

このような設定にした背景には、2018年という公開当時の時代性が関係していると考えられる。「普通の家庭」というものの定義が困難になり、経済格差が社会問題化する中で、中途半端に「一般家庭」を描こうとすれば、視聴者との認識のズレが生じるリスクがある。「思ったより裕福だ」「いや、もっと厳しいはずだ」といった経済的な視点からのノイズが発生すれば、作品が本来描きたかった「家族の心理」や「子供の成長」というテーマがぼやけてしまう恐れがあった。

そのため、あえて明確に「裕福な家庭」として設定することで、経済的な困窮や社会的な格差といった問題を意図的に排除し、観客の意識を純粋な「家族の物語」へと集中させる狙いがあったのではないだろうか。少なくともそのような効果を生んでいるとは思う。

「おとぎ話構造」が分ける作品の評価

絵本のような物語とゆっこが人間として描写された理由

本作の最大の特徴は、中庭の木を媒介とした不思議な世界の描写と時空を超える体験にある。しかし、そのタイムリープの原理や仕組みについて、作中でSF的な説明は一切なされない。そのため、ジャンルとしてはファンタジーに分類されるが、個人的な感覚としては「小さな子供が不思議な体験を通じて成長する『おとぎ話』」と捉えるのが適切であるように思われる(「ファンタジー」と「おとぎ話」の違いはなにかと聞かれると言語化できないのですが、単なる「語感」程度に考えてください)。

不思議な世界の体験が「現実」なのか、それとも「くんちゃんのある種の空想」なのかは最後まで曖昧なままであり、その境界線はくんちゃん以外には認識されていない。このような「子供にだけ見える世界」という構造は、まさに児童文学の系譜そのものである。本作は、これまで多くの絵本が描いてきた普遍的なテーマを、細田守監督がアニメーション映画という手法で鮮やかに表現した作品と言えるかも知れない。

このように考えると、ゆっこが不思議な世界で「謎の男」という人間として出現した理由も説明できるように思われる。

私は残念ながら動物と一緒に暮らしたことはないのだが、子供の頃に(あるいは今でも)動物と話したいと思ったことはある。それは、犬や猫といったペットを飼っている人ならなおさらではないだろうか。

そういう素朴な「願い」が、くんちゃんの主観の世界として実現したのが「謎の男」ということになるだろう。この辺も個人的には「おとぎ話的」あるいは「絵本的」と感じるところでもある。

映画の評価を分けるポイントとしての「おとぎ話構造」

先述の通り、この作品は多分に「おとぎ話的」だと思うのだが、本作における「おとぎ話的描写」はこの映画の評価を分ける重要なポイントとなるとも思う。

というのも、中庭で起こる不思議な現象を抜きにすると、この映画では基本的には何も特別なことが起こっていない。子育てに悩む親の姿は多くの作品で描写されてきたことであると同時に、現実社会でも有史以来多くの親が経験してきたことでもある。くんちゃんの「妹ができたことによる孤独」、「長男ゆえに親にかまってもらえない寂しさ」、「兄としての自覚と成長」についても同様である。

したがって、中庭で不思議なことが起こるということ、そこで人間化したゆっこや未来の妹に出会うということ、家族の歴史を目の当たりにしていくことといった具体的に発生している不思議な描写を面白いと思わなければこの映画はおそらく面白くはない。

何やらこの作品の評価が芳しくない理由の一つはこの辺のことに由来しているような気がする。

個人的なことを言えば、私自身もそこまで「おとぎ話的描写」を面白いとは思わなかった。しかし、実のところ私はこの「未来のミライ」が結構好きな作品となっている。その理由が次にまとめる「コメディ描写」である。

作品評価を分けるもう一つのポイントとしての「コメディ表現」そして「子供を描く」というテーマ

本作には、「子育て」や「親に理解してもらえない苦しみ」といった、ともすれば重く説教臭くなりがちなテーマが含まれている。しかし、随所に挿入されたコミカルなシーンが物語の清涼剤となり、作品全体を軽やかなものにしている。個人的には、本作におけるコメディ表現は本作の魅力の一つであると感じているし、素直に面白かった。

本編では少なくとも以下のような意図的なコメディ表現があったと思う：

これらのシーンが深刻になりがちな物語の「閑話休題」となり、良いリズムを与えてくれている。

また、「子供を描く」ということが本作の重要なテーマであったこともこの文脈で重要なことであると思われる。シネマトゥデイの記事にも以下のような細田監督の発言が掲載されている：

「昔のアニメーションは動物をいっぱい描いていたのですが、今はそれもあまりできないんです。今回は大変な努力をして犬も描いたんですけどね（笑）。今はああいうことはできない。もっと大人を描く、キャラを描く、というのがアニメーションの役割になった。でもそれに対して異議を唱えたいという気持ちがあるんです。」

出典：シネマトゥデイ「細田守監督、アニメは子供を描いてこそ！新作『未来のミライ』に込めた思い」（2018-05-25）

上で挙げた「コメディシーン」を面白くしてくれているのはまさに子供であるくんちゃんの描写である。中にはあからさまで大げさな描写もあるのだが(例えばエンジンの風に吹かれるシーン)、その一方で、くんちゃんの見せる面白い「姿勢」「仕草」がたしかに子供がやるものであることも事実だと思う。

近くで子供を見ることで観察できる「子供ならではの何やらおかしげな様子」をうまく描写できたことも、少なくとも私にとってコメディシーンが面白く感じられた理由かも知れない。

このように、本作のコメディシーンは作品の清涼剤であると同時に、重要な魅力となっているのだが、逆に言いうと、これらのコメディ表現や演出を楽しめるかどうかも、作品全体の評価を分けるポイントになるかもしれない。

つまり、もしこのノリが肌に合わなければ、残るのは「子育ての大変さ」や「子供の癇癪」といったストレスフルな描写だけになってしまい、作品全体が窮屈に感じられてしまう可能性がある。

先述した「おとぎ話構造」とここでまとめた「コメディ描写」のどちらかに魅力を感じれば作品の評価はある程度良いものになると思うが、そのどちらにも魅力を感じない場合は「どこかでよく見た話」を98分見せられることになるので、評価は芳しくなくなると思う。

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以上が私が個人的にまとめた「未来のミライ」のあらすじと考察・解説でございます。この作品を一言で述べれば「4歳の少年が兄としての自覚をもつまでを描いた子供の成長物語」ということになるのですが、この部分だけを持って面白いと思うのは流石に難しいと思います。

個人的にはこの記事でも述べたように、コメディシーンが面白く感じたので好きな映画なのですが、皆さんにとって「未来のミライ」はどのような作品だったでしょうか？

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